取り扱いが簡単な腕時計型の装置と独自に開発したデータ解析の機械学習法を使い、成人の睡眠を精度よく測定しパターンの分類に成功した、と東京大学の研究グループが発表した。従来の大がかりな装置に近い精度を発揮し、パターンには睡眠障害が疑われるものも含まれていた。睡眠の健康診断の普及や睡眠障害の診断、治療法の開発につながると期待される。
現代人は睡眠のパターンが多様化し、平日と休日で睡眠時間が異なる「社会的時差ぼけ」が肥満や高血圧、精神ストレスにつながるなど健康上の悪影響が指摘される。なかなか寝つけない「入眠困難」や、一時的に目が覚めてしまう「中途覚醒」などの不眠症の症状は、脳波などの計測により正確に把握できる。ただ装置が大がかりで手軽さに欠け、診断に必要な1週間程度の計測は難しい。患者の日誌や問診などの主観によらず、簡単で正確に睡眠を測る方法が望まれてきた。
近年、腕時計型の装置で腕の動きの加速度を測る方法が編み出されている。ただこれらは睡眠の状態にあることの検出精度が高い一方、覚醒していることの検出精度は最高でも50%あまりと低い。睡眠中に寝返りを打って腕が動くこともあり、覚醒によるものと区別しにくい難点があった。脳や心の病気には中途覚醒が起こるものが多く、覚醒を捉える精度が極めて重要という。
そこで研究グループは、腕の加速度を基に睡眠と覚醒を判定するデータ解析の機械学習の手順「ACCEL(アクセル)」を独自に開発した。加速度のパターンをうまく見分け、覚醒による動きと、寝返りの動きとを区別できるようにした。すると、覚醒を約80%の精度で検出することに成功。大がかりな従来法に比べ総睡眠時間の差は約18分、中途覚醒時間の差も約4分という高い精度を得た。
さらに、腕時計型の装置を着けた英国の成人約10万人の加速度のデータベースに、ACCELを適用して解析を重ねた。その結果、睡眠が16のパターンに分類できることを見いだした。朝型や夜型のほか、日ごとに睡眠時間帯がずれていく型、睡眠時間が短い型、中途覚醒の時間が長い型や短い型、一晩の間に中途覚醒の長短が混ざった型などがあった。7パターンが不眠症と関連するという。
この方法は、大がかりな従来法の精度にかなり迫ったとみられる。睡眠を正確に測定してパターンを理解することは健康管理や、不眠症などの睡眠障害の診断、治療のために重要。簡単に身に着けられる装置とACCELを活用することで、これらに役立つと期待されるという。
研究グループの東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻(兼理化学研究所生命機能科学研究センターチームリーダー)の上田泰己(ひろき)教授(薬理学、時間生物学)は「大がかりな従来法だと保険診療でも、入院して一晩で数万~10万円かかる。これを毎年全ての人にとなると、医療経済的に難しい。今回の手法なら、非常に小さなコストと手間で大規模に測定できる。年1回は睡眠の健康度を測れる社会を目指したい。今回の成果がその一歩になれば」と述べている。
同大の南陽一特任准教授(時間生物学)は「普及すれば、多くの人の客観的なデータから個々人の睡眠の傾向を理解できる。青少年をはじめ、健康の向上に役立つだろう」とする。
研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業により行われた。成果は米国科学アカデミー紀要の電子版に3月14日に掲載され、JSTと東京大学が同15日に発表した。
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