量子科学技術研究開発機構(量研機構)は4月1日、日本が目指すべき未来社会の姿「Society5.0」を目指し、持続可能な発展の基盤となる量子機能に関する研究開発および量子技術の社会実装を推進するため、同日付で量子ビーム科学部門の高崎量子応用研究所内に、量子機能創製研究センターを新たに設置したことを発表した。
政府の掲げる第6期科学技術・イノベーション基本計画の中で、Society5.0の実現には、安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革を目指したサイバー空間とフィジカル空間の融合による新たな価値の創出が必要とされている。そこでは急速に拡大するサイバー空間の膨大なデータ量・通信量に対応し、持続可能な社会の発展を支えることが不可欠で、高速・安全かつ低消費電力でデータの処理ができる、これまでとは異なる概念に基づく新しい材料が求められており、そのキーテクノロジーとされているのが量子技術である。
量子機能創製研究センターは、持続可能な社会の発展につながる超低消費電力な光スピン集積デバイスや、超高感度な量子センサなどの量子機能に関する研究開発および量子技術の社会実装を強力に推進することを目的としており、そのために量研機構が有する高エネルギーのイオンビームや電子線などの量子ビーム照射技術を駆使した、ダイヤモンド中への窒素-空孔(NV)中心などの量子ビット形成技術や、量子センサなどの研究開発で不可欠な、スピンやフォトンといった量子の状態を制御する基盤技術を最大限に活用し、新たな量子機能の創製に向けた研究開発を推進するとしている。
量子機能創製研究センターで進められるプロジェクトは、量子センシング、二次元物質スピンフォトニクス、レーザー冷却イオン、光スピン量子制御、量子材料理論、希土類量子デバイス、量子材料超微細加工の7つ。量子センシングプロジェクトでは、イオンや電子ビームを駆使してダイヤモンドやSiCなどのワイドバンドギャップ半導体中に量子センサとなるスピン欠陥を形成し、超高感度な磁場や温度のセンシングに応用する研究が進められるという。
また、二次元物質スピンフォトニクスプロジェクトでは、グラフェンなどの二次元物質や磁性材料をベースに、光と電子の情報の相互変換を可能にする量子材料や光により動作するスピンデバイスの研究など、光-スピン融合技術”スピンフォトニクス”の基礎研究が進められるほか、レーザー冷却イオンプロジェクトでは、イオントラップに捕捉された冷却イオンを量子ビットとする量子コンピュータの開発やイオントラップをイオン源として用いる超精密イオン注入技術の開発により、量子情報処理技術の研究・開発が推進される計画としている。
さらに、光スピン量子制御プロジェクトでは、半導体量子構造や複合欠陥のスピン状態を高度に制御し、半導体集積化技術やフォトニクス技術との融合を見据えた量子状態の精密制御や異種物質接合の構造解析・量子物性に関する研究が進められるほか、量子材料理論プロジェクトでは、第一原理理論計算を活用した新規量子材料の探索や、量子デバイス中の電子状態解析、ゲート方式量子コンピュータのアルゴリズム開発や量子誤り訂正技術の研究・開発が推進されるとしている。
加えて、希土類量子デバイスプロジェクトでは、窒化物などの半導体に注入した希土類元素を量子ビットや単一光子源として制御する量子デバイスを開発し、オンチップ量子もつれ光源の実現に向けた研究や新たな量子センシング手法の開発が進められるほか、量子材料超微細加工プロジェクトでは、メタルレジストや新規ブロック共重合体といったEUVレジスト材料の開発、さらに、量子デバイスの高品質化・集積化に欠かせない超微細リソグラフィ技術および超微細3D素子造形に関する研究が推進されるとしている。
なお、クロスアポイントメント制度を活用した外部有識者の参画や大学、公的研究機関等との人的交流、産業界との連携を活性化する産業協創ラボの設置などを通して、産学官オールジャパン体制で技術と知識を結集し、量子科学を産業競争力強化/社会課題解決に役立つ広く使える技術として、Society5.0の実現に向け日本の経済発展と社会的課題の解決を両立する社会の実現に貢献することを目指すとしているほか、同センターの大島武センター長は、今回の同センター設置に対し、「センターでは、量子材料・機能創製などの基礎研究からデバイス応用までを視野に入れた幅広い研究を推進します。産学官の密接な連携のもと、スピンやフォトンといった量子を巧みに操り、さらに、それらの相互作用を活用することで世界を先導するユニークな研究を実施するとともに、量子科学を広く使える真の技術とするハブとしての役割を担ってまいります」とコメントしている。