SK Hynixのパク・ジョンホ(朴正浩)代表取締役副会長は3月30日に開催された、定期株主総会直後の記者会見で「SK HynixはArmを買収するつもりか」という記者の質問に「Armは単独で買収できる企業ではない。戦略的投資家や他社と共にコンソーシアムを構築し買収する案を検討している」と答えたと韓国の複数のメディアが報じている。朴副会長は「特定の企業がその利益を総取りするようなArmの買収は半導体エコシステムが許さないため、共同で買収する案を考えている」と説明したとする。
同氏は、3月28日に開催されたSK Square(2021年11月にSK Telecomから分割独立した半導体ファブレスIC会社)の株主総会でも、同社の代表取締役副会長として「(設計力強化のために)他社と共同でArmの買収を検討しているが、筆頭株主になることは意図していない」と述べていたとのことで、3月30日の記者団の質問は、その発言を再確認するためのものであった模様である。
韓国の半導体業界関係者によると、Arm買収計画はまだ初期的な段階で可能性を述べたに過ぎないという見方がある一方で、4月にも具体的な交渉に入るとの噂もあるという。
朴副会長は、SK Hynixの親会社であるSK Telecomやグループ会社のSK Square副会長も兼ねており、実質的にSKグループ全体の半導体事業のトップの座にあり、SK財閥トップで各社の会長職にある創業者一族のチェ・テウォン(崔泰源)氏の懐刀ともいわれる影響力の大きな人物である。東芝メモリ(現キオクシア)の米ベインキャピタルを通した買収交渉の際にも陣頭指揮した人物としても知られる。
一方のArmは、ソフトバンクの子会社であるが、NVIDIAへの売却が、各国の規制当局の承認が得られず頓挫した経緯があり、それを受けてソフトバンクはArmのIPO(株式公開)を予定している。また、それに備えてArmは業績向上に向け、事業規模の縮小を図るために1000人規模の人員整理を行うとしている。
SK HynixがIntelから買収したNAND事業を統合
SK Hynixは2021年10月、韓国の8インチファウンドリであるKey Foundry(もとは韓MagnaChip Semiconductorのファウンドリ事業部門)の5758億ウォンでの買収契約を締結したほか、2021年12月には90億ドル規模のIntelのNAND事業部の第一段階の買収を終えた。またSK Hynixは、キオクシアの14.96%の株式を保有するなど、今後、さらにグローバルな規模で半導体事業拡大を狙っている。
SK Hynixの株主総会で、朴副会長は「Solodigm (IntelのNANDフラッシュメモリ事業の段階的な譲渡の受け皿としてSK Hynixが米国に設置した子会社)とSK HynixのSSD事業を徐々に統合してシナジーを最大化する。これを通じてグローバル運営体系を強化し、 NAND事業をさらに成長させる」と述べたと韓国メディアは伝えているほか、「米国シリコンバレーにR&Dセンターを構築し、現地の巨大IT企業とのコラボレーションを図る核心拠点として技術競争力を強化していく」と強調し、競合のSamsungを見習ってグローバル企業をめざす意向を鮮明にしたという。
また、韓国公正取引委員会は、SK HynixのKey Foundry買収について3月30日に承認したと明らかにした。同委員会は、SK HynixがKey Foundryを買収しても両社の合計シェアは5%台にすぎず半導体成熟プロセスファウンドリ市場で競争が制限される懸念がないと判断したという。ただし、韓国以外の主要国の承認手続きは継続しており、遅くとも今年末までに買収手続きを終えたいとしている。
なお、SK Hynixは、ソウルの西江(ソガン)大学と半導体産業における高度な技術力を発揮できる人材育成のために提携し、同大学の工学部内に「システム半導体工学科」を来年度に新設すると3月30日の株主総会の場で発表している。韓国政府が推進しているいわゆる契約学科と呼ばれる制度で、入学を許可された者は、学費が全額免除されるほか、SK Hynixへの就職が入学段階の契約で保障される。同社は、高麗大学ですでに契約学科を発足させているが、韓国政府の要請で契約学科の普及に協力している。
SKグループでは、朴代表取締役が率いるSK Telecom、SK Square、SH Hynixが一体となって半導体事業を強化していくことで、韓国政府が語る「半導体メモリ強国にとどまらず(システムLSIでも世界トップを目指す)総合半導体強国戦略」の実現に向けた取り組みを進めているように見うけられ、SKグループ全体としても、半導体デバイスのみならずSK Siltronがシリコンウェハの増産を図るなど、周辺分野の強化も進められている。