東京大学(東大)、日清食品ホールディングス、科学技術振興機構(JST)の3者は3月31日、日本で初めて「食べられる培養肉」の作製に成功したことを発表した。
同成果は、東大大学院 情報理工学系研究科の竹内昌治教授(東大 生産技術研究所 特任教授[学内クロス・アポイントメント])、日清の共同研究チームによるもの。詳細は、3月17日から19日までオンデマンド開催された「第21回日本再生医療学会総会」(4月15日までオンデマンド配信中)において、3月17日に発表された。
世界的な人口増加やライフスタイルの変化により、将来、地球規模で食肉の消費量が増加する一方、畜肉の生産は多くの水や飼料を必要とし、温室効果ガスの排出量が多いことなどから、地球環境に与える負荷が大きく、環境保護の観点から課題となっている。
そうした中で現在期待されているのが、畜肉の細胞を体外においてバイオテクノロジーを駆使して組織培養することによって作製する培養肉であり、メリットとしては、家畜を飼育するのと比べて地球環境に与える負荷が低いこと、畜産のように広い土地を必要としないこと、無菌状態での培養が可能なために厳密な衛生管理が可能であることなどがあるとされており、食肉の新たな選択肢の1つとして期待されるようになっている。
竹内教授と日清の共同研究チームは、2017年度より「培養ステーキ肉」の実用化の共同研究を行ってきており、2019年には牛肉由来の筋細胞を用いたサイコロステーキ状(1cm×0.8cm×0.7cm)の大型立体筋組織の作製に成功したことを報告していた。
食べられる培養肉の作製においては、「食用可能な素材のみを使用すること」と「研究過程において食べられる制度を整えること」の2つの大きな課題があったという。これまでの「培養肉」は、牛肉由来の筋細胞と食用ではない研究用素材で作製されていたが、今回、独自に開発された「食用血清」と「食用血漿(けっしょう)ゲル」を使用することで、食用可能な素材のみで培養肉を作製できるようになったとした。
培養肉の作製には、一般的に細胞、栄養成分、足場材料が必要とされる。今回開発された食用血清は、細胞を育てるために必要な栄養成分である「培養液」の素材として使用される。また、同じく開発された食用血漿ゲルは、立体筋組織(培養ステーキ肉)を作製するために必要な細胞の足場材料となる素材だという。
これまで、既存の食用素材だけでは十分な栄養成分の供給や立体筋組織の構築が困難だったが、今回開発された食用血清と食用血漿ゲルを使用することで、細胞の生育に適した条件で培養することが可能になったとしている。
そして2つ目の「研究過程において食べられる制度を整えること」については、今回の成果をもとに、日清がこれまで培ってきた「食の安全」に関する知見を活かして構築した培養肉を食べるまでのプロセスについても、東大の倫理審査専門委員会から承認を受けたことを発表した。
こうして、素材と制度の2つの課題をクリアしたことで、産学連携の培養肉研究において日本で初めて食べられる培養肉が作製され、3月29日には研究関係者による試食が実施された。
従来の機器を使った分析に加え、人による官能評価が可能になったことで、味、香り、食感などの“おいしさ”に関する研究開発が大きく進展し、肉本来の味や食感を持つ培養ステーキ肉の実用化に一歩近づいたとしている。
なお、研究チームは現在、肉本来の味や食感を持つ培養ステーキ肉の実現に向け、立体筋組織のさらなるサイズアップを目指しており、2025年3月までに厚さ2cm×幅7cm×奥行7cmの大型立体筋組織を作製する計画としているほか、おいしさと低コストを両立させる大量生産技術の確立を目指した研究も進めているとしている。