昭和電工は、パワー半導体で使用されるSiCエピタキシャルウェハの世界最大級サプライヤーだが、これまでSiC単結晶基板(バルクウェハ)については、他のSiC結晶メーカーから購入し、その基板上に加工を施し、国内外のパワー半導体メーカーに供給してきた。しかし、同社は3月28日、エピ層形成の基板となる6インチ(150mm)のSiC単結晶ウェハについても自社内にて量産を開始したことを明らかにした。
同社は、2010年から2015年にかけて経済産業省および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」に技術研究組合次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構のメンバーとして参画し、SiC基板製造技術の開発を行ってきたほか、2018年には新日鐵住金グループ(現 日本製鉄グループ)のSiCウェハの開発・製造からの撤退を受け、その有形および無形資産一式を譲りうけ、SiC基板の量産技術の開発を進めてきたという。
こうした背景を踏まえ、複数の有力顧客が同社が試作した6インチSiCウェハを用いたSiCエピウェハをパワーデバイス製造に採用しはじめたことを受け、同社は6インチSiCウェハの量産を開始した模様である。旺盛なSiCパワー半導体に対する需要に応えるため、引き続きSiCウェハ提供パートナー各社よりSiCウェハの調達を継続する一方、社内を含め材料調達先の多様化を進めることでSiCエピウェハの安定供給体制を構築するとしている。
昭和電工は「共創型化学会社」として、グローバル社会の持続可能な発展への貢献を目指し、エネルギー効率化を実現するSiCエピウェハを同社の次世代重要事業と位置付けて注力していくとしている。
エピウェハの内製を計画する東芝
昭和電工は、高効率SiCパワー半導体デバイス事業をグローバルに展開している有力半導体企業各社に対してSiCエピウェハの長期供給契約を結んでいる。例えば、SiCエピウェハの安定供給を求める東芝の子会社である東芝デバイス&ストレージとも2021年に2年半(延長オプション付き)にわたる長期供給契約を締結している。
その東芝は、鉄道車両向けインバーターをはじめとする、多種にわたるSiCパワー半導体の開発および製造を行っており、そうしたSiC SBD(ショットキーバリアダイオード)およびSiC MOSFETに昭和電工のSiCエピウェハが用いられてきたという。現在は、昭和電工から購入したSiCエピウエハを使って東芝姫路半導体工場にてパワー半導体素子の製造が行われている模様である。
東芝では、数年後にSiCパワー半導体市場が本格的に立ち上がると見ており、材料調達先を多様化・安定調達を図る一環として、昭和電工からのエピウェハ購入を継続しつつも、エピ層の形成を一部内製に切り替える方針を打ち出している。これは、SiCエピウェハではなくバルクウェハを他社から調達し、自社内でエピ成長工程を行おうというもので、東芝デバイス&ストレージの子会社で半導体製造装置を手掛けるニューフレアテクノロジーでは、SiCエピタキシャル成長装置を製造販売しているため、製造装置をグループ内より調達でき、SiCウェハおよびパワー半導体の最適化に向けた改良をグループ内で行えるメリットを有している。
東芝の一部のパワー半導体製造工程では、製造プロセスの途中で選択エピタキシャル層を形成する場合がある。例えば車載向けではゲート構造をウェハの中に埋め込んだ新構造で性能向上を実現する製品の開発を行うほか、送配電などの高電圧用途にはシリコンMOSFETで採用しているスーパージャンクション構造の導入によって、低損失化を図っていくとしているが、これらの構造は、デバイスの製造工程中に「インプロセスエピ」と呼ぶエピタキシャル成長工程が必要となることから、装置およびプロセス開発でニューフレアテクノロジーと密接な共同開発体制を敷いて、実現を目指すとしている。
なお、東芝の競合の1社であるロームは、SiC結晶・ウェハ製造メーカーである独SiCryatalを買収しているほか、STMicroelectronicsもスウェーデンのSiCウエハ製造メーカーNorstelを買収するなど、グループ内でパワー半導体向けSiCウェハの調達体制を構築しているが、供給安定化のために他社からの基板供給も併用しており、昭和電工も、東芝のほか、ロームやInfineonなどとも長期供給契約を締結済みである。