最新の車載用電子機器に安定した性能を提供するためのコンデンサを選択するには複数のパラメータを考慮する必要があり、そのためには様々なコンデンサに使われている技術が持つそれぞれの性能特性を理解しなければなりません。
コスト効率良く、高信頼性のソリューションを実現するためには、車載環境と特定用途を考慮します。本稿では4つの主なコンデンサ誘電体であるタンタル電解、アルミ電解、ポリフィルム、セラミックを取り上げます。また、車載環境と用途の一般的な区分についても記述します。
図1は主なコンデンサ誘電体の標準容量値と電圧範囲を示しています。0.1μF~100μFの容量値、50V以下の電圧の用途では、いくつかの選択肢が重なります。これらのコンデンサの性能特性を理解するためには、まず基本の理解が必要です。
図2は基本コンデンサ4種の標準誘電率(K)と耐電圧値を示しています。低K値と低絶縁破壊強度が組み合わさると(例としてポリフィルムコンデンサ)結果として低い体積効率になります。しかし、物理サイズはコンデンサの特性の1つでしかありません。例えば、フィルムコンデンサはやや大型でありながら、高効率と安定した電気特性を提供します。
図3はすべてのコンデンサに当てはまる等価回路を示しています。等価直列抵抗(ESR)はインピーダンスの実数部であり、コンデンサの損失を表します。ESR値は温度、周波数、誘電体タイプによって異なります。絶縁抵抗(IR)は、印加電圧に対するDCリーク電流の量を決定します。リーク電流は通常、タンタルまたはアルミニウム(電解)コンデンサより、フィルムまたはセラミック(静電気)コンデンサの方が低くなります。DCリークは温度と印加電圧の大きさによって異なります。
図4の数式はコンデンサの重要な関係性(容量性リアクタンス、損失係数、誘導性リアクタンス、インピーダンス)を表します。注:絶縁抵抗値(IR)に利用するのは高い値の抵抗器のため、全体的なインピーダンス(Z)の算出では簡略化のため無視します。
Zはコンデンサが入力信号に与える影響を決定します。低ESRは、充電・放電サイクルにて高効率、低熱損失、高信頼性を実現するための重要な要素です。容量性リアクタンス(XC)と誘導性リアクタンス(XL)は、デバイスのエネルギー貯蔵容量と誘導電解の生成に関連する数値です。
XCとXLが等しいと、デバイスの共振周波数が得られます。これはDC信号からACノイズを取り除くために使用するデカップリングコンデンサを選択する際に重要になります。DC電源レールからACノイズを効率的に取り除くためには、最小インピーダンスと接地面までの最大デカップリングを提供し、除去したいACノイズの周波数に近い共振周波数のコンデンサを選択します。
電子部品の車載用途は主に6つの区分に分けることができます。
- パワートレイン制御(電子制御エンジン、トランスミッション、エミッション制御)。最近のEVの傾向は電力変換や制御装置の新たな必要性を高めます
- 自動車制御(アンチロックブレーキ、アクティブサスペンション、トラクション制御、パワーステアリングと4WDステアリング)
- 安全、快適度、利便性(エアバッグアクチュエータ、衝突防止、空調制御、走行制御、盗難防止)
- 車内エンターテインメント
- ドライバー情報ディスプレイと音声警告システム
- 診断と修理
車載環境には厳しいものもあります。図5はボンネット下および乗員室の環境を示しています。
主な車載環境と用途の説明の次は、4つの主なコンデンサ技術、および回路性能と長期信頼性に影響するそれぞれの特性を述べます。
最も単純な分類をすると、ほぼすべてのコンデンサは2種の基本構造に当てはめることができます。静電(ポリフィルムやセラミック)と電解(タンタルやアルミニウム)です。静電コンデンサは通常、低ESRと低インピーダンスを提供する無極性のデバイスです。電解コンデンサは極性で静電コンデンサより高い容量値が特長です。
タンタル電解コンデンサ
- SMDが2.5VDC~63VDCの定格電圧、アキシャルリード付きが125V(注:信頼性を最大化するためには、印加電圧を固体タンタルの定格電圧50%までディレート、タンタルポリマーと湿潤スラグアキシャルタンタルは80%までディレート)
- 時間と温度の経過とともに極めて安定した電気特性
- SMDは2200μF、アキシャルウェットタンタルは10000 μFまでの容量値
- サージ試験/大型スクリーンSMDケースサイズ(低ESRと高容量値)
- 通常の電圧ディレートで5FIT-15FITの標準故障率(10億時間あたりの故障率)
アルミ電解コンデンサ
- 6.3VDC~450VDCの定格電圧(SMDデバイス)。大型CANはこれより高い電圧
- 85℃、105℃または120℃の温度定格で提供
- 10mFまでのSMD容量値
- 電流スクリーンのサージ不要
- アルミ電解は自然消耗構造を特長とし、これにより最大温度と定格電圧では寿命が5000時間までとなる。寿命を2倍延ばすためには定格電圧の80%のディレーディングで使用
セラミックコンデンサ
- 6.3VDC~5000VDC定格電圧(100V以下が主流)、電圧ディレーティングは不要だが容量値の電圧係数の検討が必要。定格電圧またはそれに近い電圧でMLCCを動作すると実効容量値は最大40%の損失がでる可能性
- 150℃以上の動作温度
- 非極性(高速挿入のためバルクフィード可能)
- 超低ESR・DCリーク
- 1FIT以下の標準故障率、標準故障モードは短絡またはパラメトリックシフト
ポリフィルムコンデンサ
- 16VDC~2000VDCの定格電圧、電圧ディレーティング不要
- 主流は105℃までの動作温度(PPSは125℃)
- 超低ESR・DCリーク
- 5FIT以下の標準故障率、標準はフェイルオープンまたはパラメトリックシフト
- 表面実装での提供は限定
設計する際には上記の特長を参考にしてコンデンサの選択が必要です。コスト、サイズ、生産性も重要な要素になります。
ある用途に最適なコンデンサを選択することは容易ではありません。主な車載、その他電子回路用途の一般的なガイドラインは次になります。
- パワーフィルタリング:高容量値、低ESR、高温性能 - タンタル、アルミ(一部セラミックやポリフィルム)
- バルクエネルギー貯蔵:高容量、低ESR(高速放電やパルス用途) - タンタル、アルミ(一部ポリフィルム)
- チューニング&タイミング:全温度と周波数範囲をわたり安定した容量値、熱サイクルで反復可能 - セラミック(NP0タイプ)、ポリフィルム
- デカップリング/バイパス:超低ESR、優れたZ特性 - セラミック、ポリフィルム
コンデンサの選択は多次元的な課題です。各コンデンサには、特定用途に最もロジカルな選択肢となるそれぞれの特性があります。加えて、コンデンサのコスト、サイズ、パッケージ、寿命の信頼性は検討が必要な重要な要素です。多くの選択肢の中から最適なコンデンサを選ぶためには、メーカーが提供する仕様を参照する必要があります。様々な性能の高いコンデンサ製品の品ぞろえが有り、車載向け製品も展開しているビシェイでも車載用途向けに幅広いオプションを様々な製品向けに提供しています。
Andrew Wilson