順天堂大学は3月30日、各種イヤホン装着時の音楽聴取の実験から、地下鉄の騒音環境下での音楽聴取は難聴リスクを高めること、それに対してノイズキャンセリング機能を利用することで難聴リスクを回避できることを明らかにしたと発表した。

同成果は、順天堂大医学部附属 順天堂東京江東高齢者医療センター 耳鼻咽喉科の池田勝久特任教授、電気通信大学大学院 情報理工学研究科の小池卓二教授、順天堂大医学部 耳鼻咽喉科学講座・リハビリテーション室の保科卓成言語聴覚士らの共同研究チームによるもの。詳細は、聴覚と前庭系と耳の疾病に関する全般を扱う学術誌「Journal of Audiology & Otology」に掲載された。

WHO(世界保健機構)によれば、2015年には世界で11億人の若者が不適切な音量で携帯音楽プレーヤーなどを使用することで、難聴の危険にさらされているとしている。耳の感覚細胞は、定期的または長期に及んで大きな音にさらされることにより徐々に傷つき、永久的な聴力損失につながると考えられているほか、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォン(スマホ)で大音量を聴取する習慣が5年以上継続すると、一時的または永続的な高周波域の難聴になることも示されるようになってきた。

また、多くの研究から、安全な音響の上限は85dBで8時間までとされているが、現在使用されている携帯型音楽プレーヤーやスマホで出力可能な最大音量はその安全域を越えており、中でも地下鉄内など雑音が生じている中では音量を増大させる傾向にあることが分かっているが、そうした雑音下でのイヤホンによる安全な音楽聴取の対策はこれまで明らかになっていなかったという。

こうした背景のもと、研究チームは今回、聴力が正常な成人23名を対象とした実験を実施することにしたという。具体的には、4種類のイヤホン(A:耳置き型、B:ヘッドホン、C:インサート型、D:ノイズキャンセリング(NC、ノイキャン)機能つきインサート型)を用いて、ポップスとクラシック音楽を聴取し、一番聞き心地の良い音量(最適リスニングレベル)を任意で調整してもらうという内容。静寂な環境条件下と、地下鉄内で録音した環境騒音(80dB)下でそれぞれの音楽の最適リスニングレベルの計測が行われたところ、以下のような結果を得たという。

  1. 地下鉄の背景雑音下での最適リスニングレベルは、A、B、Cのイヤホンでは静寂下に比べて増加。AとBのイヤホンではCとDに比べて増加し、AとBでは危険な音量である85dB以上となる場合があった。NC機能のあるインサート型イヤホン(D)では、安全音量の75dB以下だった。
  2. 静寂下に比べて背景雑音下での最適リスニングレベルのクラシック音楽がCの方がDよりも増加した以外は、ポップスとクラシックの違いは認められなかった。
  3. 騒音下の最適リスニングレベルの増加量は、外耳道内での環境雑音圧の減少と相関があった。

これらの結果、騒音環境下では、安全に音楽聴取をするためにノイズキャンセリング機能のついたイヤホンの使用が有効であることが示されたという。

  • 測定システムの模式図

    測定システムの模式図。外耳道内の音圧は、イヤホンを装着しながらプローブマイクを挿入することで測定された (出所:順天堂大Webサイト)

今回の研究では、地下鉄などの騒音環境下では、通常のイヤホンでの音楽聴取は危険な音量に達する可能性があることが示された一方で、難聴予防の観点からノイズキャンセリング機能つきのイヤホン・ヘッドホンの使用が推奨される結果となった。ただし、研究チームでは、最適リスニングレベルには個人差があるため、聴取している音量をモニターして危険な音量に到達した場合に警告を発する仕組みの開発も望まれるとしているほか、定期的に聴力検査を施行して早期に一過性の難聴を発見するとともに、永続的な難聴への進行を予防することも重要だとしている。

  • 最適リスニングレベルの計測結果

    最適リスニングレベルの計測結果。(左)イヤホンの種類別(黒塗りは騒音下、白抜きは静寂下)。(右)外耳道での音圧との関係 (出所:順天堂大Webサイト)

なお、難聴は認知症の重要な危険因子であることが分かってきており、近年、加齢性難聴に娯楽性難聴が加わり、難聴が重症化することによって認知症の危険が高まることが危惧されるとのことで、超高齢社会に達している日本において重要な問題である認知症に関して予防の観点からも、娯楽性難聴を注視することが求められるとしている。