名古屋大学(名大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東北大学、電気通信大学(電通大)の4者は、現地時間2022年3月5日午前2時27分に、米・アラスカ州のポーカーフラットリサーチレンジにおいて、オーロラ観測を目的として日米国際協力で開発されたロケット「LAMP」が米国航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられ、無事、明滅する「脈動オーロラ」に命中し、電子や光、磁場の詳細な観測に成功したことを発表した。

  • LAMPロケットによる脈動オーロラの観測

    LAMPロケットが現地時間3月5日にアラスカ州ポーカーフラットから打ち上げられた際の様子。Justin Hartney氏提供 (C)Justin Hartney氏 (出所:PsA研究プロジェクトWebサイト)

同成果は、名大 宇宙地球環境研究所(ISSE)の三好由純教授、同・能勢正仁准教授、JAXA 宇宙科学研究所の浅村和史准教授、同・三谷烈史助教、同・野村麗子研究員、東京大学大学院 理学系研究科の滑川拓大学院生、東北大大学院 理学研究科の坂野井健准教授、同・川村美季大学院生、電通大大学院 情報理工学研究科の細川敬祐教授、九州工業大学工学部の寺本万里子助教ら「脈動オーロラ(PsA)研究プロジェクト」のメンバーによるもの。

オーロラは、主に太陽から発せられた電子が地磁気によってコースを曲げられ、両極上空で地球の大気圏に飛び込み、高層大気の窒素や酸素分子などと衝突して起こる発光現象として知られている。そのオーロラにもさまざまな形態があり、その中の1つに「オーロラ爆発」のあとによく見られる脈動オーロラという数秒ごとに明滅する謎に満ちたオーロラがある。

脈動オーロラの研究は、21世紀に入ってJAXAの小型科学衛星「れいめい」(2005年打上げ・運用中)やジオスペース探査衛星「あらせ」(2016年打上げ・運用中)の観測によって進展し、「コーラス電波」と呼ばれる宇宙空間の電波が、数~数十keVのエネルギーを持つ電子を変調させ、その結果、電子が大気に降り込むことによって発生していることなどが分かってきた。しかし、脈動オーロラの発光層の広がりや、オーロラの瞬きと降り込む電子との関係、さらに脈動オーロラに伴って降ってくる電子の上限エネルギーなどは未解明のままだったという。

そうした中、近年の研究から、研究チームによって示されたのが、脈動オーロラが起きている際に同時に、エネルギーが数百keV以上という超高エネルギーを有した「キラー電子」も降ってきているという仮説だという。このキラー電子は、脈動オーロラが起きている高度よりもずっと低い高度数十kmの中層大気まで入り込み、その場所のオゾンを破壊する可能性があるとされる。しかし、脈動オーロラと同時にキラー電子が計測された例はなく、両者が本当に関係しているかどうかはまだ実証されていなかったとする。

  • LAMPロケットによる脈動オーロラの観測

    脈動オーロラとともに降ってきていると考えられているキラー電子の想像図 (c)脈動オーロラプロジェクト (出所:ISSE Webサイト)

そこで研究チームは2015年から、米国の研究者と議論を重ね、ロケットLAMPによる観測をNASAに提案。その提案が採択され、名大が磁力計、東北大が光学観測機器、JAXAが電子観測機器など、日米の各研究機関によってLAMPの開発が行われた。

観測機器を搭載したLAMPは、アラスカ州のポーカーフラットリサーチレンジの射場に移動し、2022年2月24日から打ち上げウィンドウに突入。同時に、研究チームによって、アラスカ北方のベネタイ、フォートユーコンにもオーロラ高速撮像用のカメラ群が展開された。

そして、打ち上げウィンドウ10日目の現地時間3月5日午前2時27分30秒に、満点の星空の中、大きなオーロラ爆発が発生。LAMPロケットは、オーロラ爆発に引き続き発生した脈動オーロラに向けて打ち上げられ、見事突入して観測することに成功したという。

  • LAMPロケットによる脈動オーロラの観測

    打ち上げ前日の3月4日にアラスカ州ポーカーフラットで観測された脈動オーロラ (出所:プレスリリースPDF)

初期分析からは、搭載機器が順調に稼働し、観測データを取得したことが確認されたほか、地上からのオーロラ観測によって、実験時には、アラスカの広い範囲において、高速に変化する脈動オーロラが出ていたことも確認されている。

  • LAMPロケットによる脈動オーロラの観測

    LAMPロケット搭載オーロラカメラ(AIC) (出所:プレスリリースPDF)

脈動オーロラに観測ロケットを正確に命中させることは、極めて高い技術を必要とするが、今回の実験では理想的な状態での観測に成功したとのことで、今後の詳細な解析によって、脈動オーロラの変調機構、さらにはキラー電子との関係が明らかになることが期待されると研究チームでは説明している。

  • LAMPロケットによる脈動オーロラの観測

    (左)AICによってロケット機上から観測された脈動オーロラ。(右)S水平線方向の発光 (出所:プレスリリースPDF)

また2023年には、日本も参加して、スウェーデンで次世代型三次元大型大気レーダー「EISCAT-3D」が稼働する計画であることから、研究チームでは、EISCAT-3Dの視野内に観測ロケットを打ち上げる「LAMP-2」の検討を進めているとしており、宇宙からの超高エネルギー電子の降り込みが、地球の超高層大気、さらには中層大気に及ぼす影響の解明につなげることを目指すとしている。