セルロースナノファイバーをご存知だろうか。

地球環境への関心が高まっている昨今、耳にしたことがあるといった人も多いのではないだろうか。セルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber)はCNFとも呼ばれ次世代素材として以前から注目を集めている。

今回は、そんなCNFについて特徴や用途、普及への課題までザックリと紹介しようと思う。

CNFの原料って?

CNFとは植物を構成する細胞の主要骨格を担うセルロースのナノファイバーだ。つまり、植物から取れるセルロースをナノ(10億分の1)レベルまで微細化した繊維であって、そう難しいものでもない。

このナノファイバーはセルロース分子鎖が伸び、水素結合によって結晶化しており、鉄鋼の5分の1の重量で、その5倍以上の強度を有している。

また、温度上昇による体積膨張の割合を示す線膨張係数はガラスの50分の1であり、変形のしにくさを示す弾性率は−200℃から200℃の範囲で一定である。また、可視光の散乱を生じさせないため、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの透明樹脂を、その透明性を損なうことなく補強できる。こういった、自然由来で優れた特性を有している点から脚光を浴びているのだ。

  • CNFの概略図

    CNFの概略図(出典:環境省-脱炭素・循環経済実現に向けたセルロースナノファイバー利活用ガイドライン)

CNFは上図のように植物細胞壁を解繊していくことで得られる物質だ、そして、この解繊方法によって、さまざまな形態のナノファイバーが生まれている(シングルCNFやミクロフィブリル化セルロース:MFCなど)。

また、これまで木材や竹から製造したパルプ(木材繊維)の他に、稲ワラ、バガス(サトウキビの絞りカス)、じゃがいもやキャッサバなどのデンプン絞りカス、あるいはみかんやぶどうの果汁カスなどの農産廃棄物や産業廃棄物についても検討がなされており、いずれの原料からも幅15nm〜50nm程度の均一のナノファイバーが得られている。

  • CNF材料の広がり(出典:森林科学81, 2017, 10 )

    CNF材料の広がり(出典:森林科学81,2017,10)

透明ガラスの代替からどらやきまで、多岐にわたるCNFの用途

CNFは多岐に渡る分野での用途開発が進んでいる。金属材料やガラス、セラミックなどの日常には欠かせない工業製品をはじめ、食品などの商品にも拡充している。

例えば、有機薄膜太陽電池や有機EL用透明ガラス基板などの透明ガラスの代替としてCNF透明補強した透明樹脂、包装容器コーティング素材としてポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩ビニル(PVC)ではなくCNFのフィルムなどの検討が挙げられる。

また、軽くて強いといった特性を活かした構造材料への検討や、ゴム補強材、化粧品添加剤、人工血管や人工腱、ケーキやジャムなどにもCNFの応用が進められ、植物細胞だけでなく私達の生活を支える前途有望な素材であることは間違いなさそうだ。

  • 日本製紙が開発したCNF「セレンピア」を生地に練り込んだどらやき(出典:田子の月)

    日本製紙が開発したCNF「セレンピア」を生地に練り込んだどらやき(出典:田子の月)

  • CNFを用いたコンセプトカー

    環境省 Nano Cellulose Matchingが公開したパーツにCNFを用いたコンセプトカー。従来素材よりも10%ほど軽量化されているという

普及に向けた課題も

では、CNF普及に向けた課題はあるのだろうか。

環境省が公表しているガイドラインには、CNFの利活用に向けて課題と解決策が述べられている。以下はその一部である。

  • CNFの課題と解決方法

    CNFの課題と解決方法(出典:環境省)

CNF普及に向け、政府はガイドラインを作成するなどの取り組みを行っている。

しかし、この中でCNFを普及させるにあたって、最もネックとなるのがコストの問題(経済的課題)であろうと考えられる。

CNFは他の既存材料より高く(3,000~10,000円/kg)、価格を下げるためには量産体制を整え、大量消費先を見つけなければならない。現在実用化が進んでいるのは、スピーカーの振動板や大人用おむつなどの機能性材料であり、これらは少量のCNF添加で十分な機能が発揮される。

したがって、大量消費が期待される構造材料への用途拡大が必要となってくるのだが、高価であることが足枷となってなかなか進まないのが現状だ。素材メーカーは用途先があればCNFを安く出来るとし、製品メーカーは安いなら使うという両者の意見がかみ合っていないのだ。

ここまで、ザックリとCNFの正体と特徴、そして課題について解説した。これらを踏まえ、今後どのようにCNFの用途開発が進むのか興味を持つ人が増え、環境意識に結びついてくれると幸いである。