国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、同志社大学、科学技術振興機構(JST)の3者は3月25日、説明者がものに触れながら説明をすることで、その説明者がそのものについて「かわいい」と感じていることが他者に伝わること、さらにはその他者も対象物をより「かわいい」と感じるようになることを明らかにしたと発表した。
同成果は、ATR/同志社大の岡田優花大学院生、ATR/慶応義塾大学 理工学部の木本充彦特別研究員、ATR/同志社大 文化情報部 ソーシャルロボティクス研究室の飯尾尊優准教授、ATR/同志社大 理工学部 情報システムデザイン学科の下原勝憲教授、ATR/大阪大学 人間科学研究科 人間科学専攻の入戸野宏教授、ATR インタラクション科学研究所 エージェントインタラクションデザイン研究室の塩見昌裕室長らの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
「かわいい」という感情は、ヒト同士の社会的な交流を促すことが知られているが、新型コロナの感染予防であるマスクの着用により、かわいいという気持ちを周囲に伝える効果を有する笑顔を介して伝えることが難しくなっている。
店舗などでは、説明員の代わりにロボットの利活用も行われているが、ヒトの笑顔のように「かわいい」という気持ちを周囲に伝える効果があるほど、自然な笑顔を表出できるロボットの開発は容易ではない。
そうした中で研究チームは今回、「かわいい」と感じていることを笑顔とは異なる方法で他人に伝えられる手段に着目することにしたという。その異なる方法とは、主観的な「かわいい」と感じる気持ちが、対象に近づきたいという気持ちに結びつき、その極限の動作として現れる「対象物に触れる」という行為だという。
そして、説明者が対象物に触れるということで、対象物に対する主観的な「かわいい」という気持ちが表現されること、その様子の観察者もその対象物により「かわいい」と感じるようになること、さらに観察者は説明者に対してもより「かわいい」と感じるという仮説が立てられ、検証実験が行われた。
ロボットが説明者となって対象物(ぬいぐるみ)に触れながら説明することで、実験参加者がその対象物により強く「かわいい」と感じるかという実験が行われた結果、ロボットがぬいぐるみを触れながら説明する場合、実験参加者がぬいぐるみに対してより強く「かわいい」と感じることが判明したほか、実験参加者は、ロボットがぬいぐるみに対してより「かわいい」と感じている、と見なすことも明らかにされたという。一方、実験参加者が説明しているロボットに対して「かわいい」と感じる度合いについては、触れながらでも触れなくても変化は見られなかったという。
さらに、説明者がロボットまたはヒトであった場合の動画を作成し、Webでの追加実験が実施されたところ、説明者がヒトであっても、ロボットの実験結果と同様の結果が得られることが確認されたという。
今回の成果について研究チームでは、コロナ禍でロボットも店員として活躍する中で、商品に触れながら説明することで顧客が「かわいい」と感じる気持ちを強くし、より興味を持ってもらえる可能性が示されたとするほか、マスクによって笑顔が伝わりにくいコロナ禍においても、ものに触れることで「かわいい」と感じる気持ちが他者に伝わり、交流を促すきっかけを生み出せることも示唆されたとする。
加えて、説明者や対象物の見た目を変えず、説明者がものに触れることで実験参加者の「かわいい」と感じる気持ちに変化をもたらしたことは、主観的な「かわいい」と感じる気持ちを引き起こす要素が見た目以外にも存在していることを示すものであるともしている。