宮崎大学は3月25日、ヒトにおける慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の原因の1つである「B型肝炎ウイルス」(HBV)に近縁で、猫の慢性肝炎との関連が疑われる「猫ヘパドナウイルス」(DCH)を日本で初めて同定したと発表した。
同成果は、宮崎大 獣医微生物学研究室の髙橋和暉大学院生、同大学 農学部附属動物病院の金子泰之准教授(動物病院研究室)、同大学 獣医学科の齊藤暁准教授(獣医微生物学研究室)、複数の獣医師らの研究チームによるもの。詳細は、日本獣医学会が刊行する生物学・生命科学・基礎医学などを扱う欧文学術誌「Journal of Veterinary Medical Science」にオンライン掲載された。
近年、イエネコにおける新規のDCHが複数の国で報告されていたものの、これまで日本国内において同ウイルスが同定された報告はなく、その感染状況はわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、日本国内における感染状況を明らかにするため、国内の複数動物病院で採取された猫の血液サンプルからのDCHのウイルスDNAの検出を試みることにしたという。
解析の結果、128検体中1検体(全検体の0.78%)がDCH陽性であることが判明。ウイルス陽性の猫では持続的な肝炎様症状が認められたという。また、シーケンス解析によりウイルスゲノム全配列が決定され、公共データベースGenBankへの登録が行われた(Accession# LC668427)。
さらに、それぞれのウイルスタンパク質について系統樹を作成し、海外のDCH株との比較が実施されたところ、ポリメラーゼタンパク質、表面タンパク質およびコアタンパク質の配列については、海外のウイルス株と類似してることが確認された一方、Xタンパク質についてはほかの株との相違が大きいことが判明したとする。このことから、今回、日本で初めて同定されたDCHは日本独自の株であることが示唆されたという。
研究チームは今回、多くの臨床獣医師の協力を得ることで、国内で初めてDCHを同定することができたとする。DCH陽性であった個体は17歳の雌猫で、肝炎マーカーである「アラニンアミノトランスフェラーゼ」(ALT)が長期間上昇していたという。ALTの高値が、ほかの疾患の治療に起因する可能性は完全には排除できないが、DCH感染が当該猫の健康状態に影響を及ぼした可能性も考えられるとするものの、DCHの進化過程や、猫の健康状態に与える影響については今後のさらなる解析が必要だともしている。
なお、海外のウイルス株と差異の大きかったXタンパク質は、宿主の抗ウイルス免疫機構の抑制やウイルス遺伝子の転写の促進などの機能を有することが報告されているため、その差異の意義については、より詳しく解明する必要があると研究チームでは説明しているほか、DCHやHBVでは、ウイルス株間の相同組換えが報告されていることから、各国におけるDCHの浸潤状況とウイルスの進化を注視していく必要があるともしている。