かずさDNA研究所は、全国の計16大学・高校・研究機関と共同で、国内19都道府県に植栽されている46本のソメイヨシノのゲノム解析を行った結果、上野恩賜公園(上野公園)のソメイヨシノの1本がもっとも祖先のゲノムに近いものであることを確認したと発表した。
同成果は、かずさDNA研究所 先端研究開発部 植物ゲノム・遺伝学研究室の白澤健太 主任研究員、江角智也氏、板井章浩氏、畠山勝徳氏、高品善氏、八鍬拓司氏、住友克彦氏、黒倉健氏、深井英吾氏、佐藤慶一氏、島田武彦氏、白武勝裕氏、細川宗孝氏、門田有希氏、草場信氏、池上秀利氏、磯部祥子氏らによるもの。詳細は3月20日に開催された「日本育種学会 第141回講演会(令和4年度春季大会)」にてオンライン発表されたという。
上野は江戸時代初期より桜の名所として庶民に親しまれてきた場所で、明治以降の研究で、「ソメイヨシノ」、「コマツオトメ」、「オオカンザクラ」、「カンザクラ」の4品種が、上野公園の桜をもとに品種名がつけられたとされている。しかし、ソメイヨシノの起源については、江戸時代に染井村の植木職人が作ったとも、エドヒガンとオオシマザクラの自然交雑により誕生したとも言われているが、その起源については良く分かっていなかった。
2015年、千葉大学の研究チームが、上野公園にある小松宮彰仁親王像(小松宮像)の周辺にあるコマツオトメを含む6本のエドヒガン系樹木の自家不和合性遺伝子の遺伝子型(ハプロタイプ)を解析した結果、ソメイヨシノの兄弟であることを確認。そこから、人為的な交雑が行われ、ソメイヨシノが選抜された可能性が示されたほか、最初の1本(原木)が上野公園の小松宮像の付近に現存している可能性が示されていた。
上野公園の小松宮像は、JR上野駅の公園口を上野動物園方向にまっすぐ進んだ旧寛永寺の鐘楼堂の敷地に立っており、ソメイヨシノが4本、エドヒガンが5本、コマツオトメが1本、植栽されているが、ソメイヨシノは接ぎ木などによりクローン繁殖されて増え、今や日本のみならず、世界中で楽しまれるようになっているが、クローンであるため、ゲノム配置は共通と考えられる。しかし、実際には、繁殖の間に体細胞の突然変異により、一塩基変異が生じるという。
今回の研究では、その一塩基変異を調べることで、それぞれの木の系譜が位置づけられるものと考え、小松宮像付近の4本のほか、北は青森県の弘前公園、南は宮崎県の母智丘公園、米国ワシントンD.C.からの里帰り桜など、全国19都府県に植栽された46本のソメイヨシノの葉を用いたゲノム解析を実施。ソメイヨシノのルーツ探索を行ったという。
その結果、46本のソメイヨシノの配列データから、684個の一塩基変異が見いだされ、そのうち71個の変位が2本以上のソメイヨシノに共通していることを確認。これらの変異に基づいてそれぞれのソメイヨシノをクラスタリングしたところ、全国のソメイヨシノは、大きく2つのグループに分けることができることが判明したほか、そのうちの1つのグループはさらに少なくとも5つのクローン系統に分けることができることが確認されたという。
また、上野公園の4本のソメイヨシノについては、互いに異なるクローン系統に分かれていることも判明。これは、この4本のソメイヨシノが親木(クローン親)となり、接ぎ木されて全国に広がったものと考えられると研究チームでは説明している。
さらに、これら6つのクローン系統の中でもっとも祖先型に近いグループが特定された結果、これまでの研究で原木候補とされていたソメイヨシノ(管理番号136)ではなく、その近くに植えられている管理番号133のものであることが示されたという。
研究チームでは、今後、ゲノムに残る痕跡をさらに検討することで、ソメイヨシノの誕生の歴史を探ることができるとするほか、近年、問題になっている果樹などの登録品種の流出についても、こうした変異の追跡を行うことで、流出経路の特定につなげられる可能性もあるともしている。
参考文献