三井不動産は2015年から、本業強化・事業領域拡大に向け新産業を創造するため、本格的にスタートアップ企業との共創事業「31VENTURES」に取り組んでいる。「FUND」・「COMMUNITY」・「WORKSPACE」の3つの柱でスタートアップ企業との共創を目指している。これまで、約700の企業が支援候補に挙がったという。
そこで、ベンチャー共創事業部 プリンシパル 江尻修平氏に、三井不動産がベンチャー支援を行う狙いや支援内容を聞いた。
三井不動産がベンチャー支援を行う理由は何でしょうか?
江尻氏:弊社は不動産業として、スタートアップとのかかわりは以前からあり、オフィスビルに入居し成長していただくということで関わっています。弊社は時代の流れとともに、スマートシティなど、テクノロジーの活用が不可欠になってきました。とはいっても、われわれは不動産業ですので、社内にシステムエンジニアやR&Dチームがあるわけでもありません。そこで、先端的で革新的なサービスを持つスタートアップのみなさんと一緒にビジネスをやることで、技術を取り込むことを2015年くらいから31VENTURESとして開始しました。
支援するスタートアップを選ぶ基準は?
江尻氏:基本はわれわれの提供している街や場所で協業ができる会社ということになります。街づくりといってもオフィスビルや住宅、商業施設やホテルなどもあり多岐にわたっているので、住宅に住んでいる方に提供できるサービスやホテルの利用者に向けたサービスなど、不動産TECHだけではなく、利便性向上なども対象になってきます。事業としてスケーラブルかどうかはよく見ています。また、ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインと一緒にビジネスの継続性などを議論しながら進めています。スタートアップにもいろいろなステージがあり、すぐに協業できないが将来性があるということもありますので、このあたりのバランスはよく見ています。
支援策としては、どういったことをしているのでしょうか?
江尻氏:1つはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)という形での資金提供です。また、スタートアップ向けのオフィスを「startup workspace THE E.A.S.T.(ジ・イースト)」というブランドで提供していますが、これにより働く場所の支援を行っています。
(注)“E.A.S.T.”はEmpowering Ambitious Startups in Tokyoの略で、東京東側エリアで意欲的なベンチャーを勇気づけ、力を発揮してもらうという意味。入居後はワークスペースに常駐するサポートメンバーが定期的な個別面談や事業パートナーの紹介、販路開拓支援、協業・資金面の検討などに対応する。また、スタートアップの事業成長のために、スタートアップが自社の商品や事業戦略の発表会を実施できる設備も完備している。
ベンチャー共創事業部の役割は?
江尻氏:1番はわれわれのビジネスでどう役立てていくかということで、われわれがスタートアップの営業マンとして社内の各事業部に対して売り込みを行い、新たなビジネスの立ち上げを支援します。ベンチャー共創事業部は30名ほどおり、31VENTURESには約12名が所属しています。このうち10名ほどがCVCに関わっています。われわれは、社内の事業部とスタートアップの間に立ち、橋渡し的な役割を担っています。事業部のほうで予算が取れなかった場合、われわれがPoCの費用負担を行ったりします。これまで、事業部に対して700ほどのスタートアップ企業を紹介してきました。
これまでの成功事例は?
江尻氏:一番シンボリックなのは、ナレッジ・マーチャントワークスで、パートやバイトなどのシフトワーカー向けのアプリ「はたLuck」を導入した件です。従来であれば、業務の引継ぎはノートに書いて行ったりしていましたが、それをWeb上の掲示板で実現しました。また、シフト作成や業務マニュアル閲覧もできるようになっています。三井不動産では、ららぽーとやアウトレットパークのような商業施設を運営しており、そのテナントにパートやアルバイトがいらっしゃるので、そのDXに役立っています。入館証もカードではなくデジタル化しており、ショッピングモール全体で情報共有できる仕組みもあります。これらの部分は弊社の現場の声を取り入れながら開発されています。
そのほか、Airporterという空港やホテルに手荷物を当日配送するサービスを提供している会社にも出資しており、三井ガーデンホテルと提携しました。ホテル側は、手荷物の管理やフロント前の置くためのスペース、景観の問題が解決し、お客様も手ぶらで観光できるようになりました。
共創成功のポイントは?
江尻氏:そのほか、Airporterという空港やホテルに手荷物を当日配送するサービスを提供している会社にも出資しており、三井ガーデンホテルと提携しました。ホテル側は、手荷物の管理やフロント前の置くためのスペース、景観の問題が解決し、お客様も手ぶらで観光できるようになりました。
今後、新たに展開しようと考えていることはありますか?
江尻氏:脱二酸化酸素の領域も少しずつ力を入れていかなければならないと思います。弊社にはいろいろなアセットがあり、かなりCO2を排出しているので、カーボンニュートラルに向け、排出量を減らすことはやっていきたいと思います。