物質・材料研究機構(NIMS)と科学技術振興機構(JST)は3月23日、独自開発した電気化学自動実験ロボットとデータ科学的手法を組み合わせた新しい材料探索手法を確立し、「リチウム空気電池」用の電解液材料探索に適用した結果、充放電サイクル寿命を約2倍に向上させる材料の開発に成功したことを発表した。
同成果は、NIMS エネルギー・環境材料研究拠点 二次電池材料グループの松田翔一主任研究員、NIMS 統合型材料開発・情報基盤部門 エネルギー材料設計グループのラムバール・ギヨム主任研究員、同・袖山慶太郎グループリーダーらの研究チームによるもの。詳細は、「Cell Reports」系列の物理学全般を扱う学術誌「Cell Reports Physical Science」に掲載された。
リチウム空気電池は、リチウムイオン電池(LIB)の次世代として期待されている二次電池の1つで、負極として金属リチウム、正極として大気中の酸素を活物質として利用し、現行のリチウムイオン電池の2~5倍ほどのエネルギー密度を実現できるとされる。
実用化に向けた課題の1つは、充放電サイクル数の低さであり、その解決のためには、トレードオフの関係にある正極反応と負極反応のどちらとも高い効率を実現する電解液の開発が必要であり、そのための電解液へ導入する高性能な添加剤が求められていたが、その開発が非効率でボトルネックになっていたという。
背景には、検討すべき化合物の候補、組み合わせの数が膨大であることや、添加剤の機能発現機構は複雑なために合理的な材料設計が困難であることなどがありつつも、研究者の経験や勘に頼った試行錯誤的なアプローチで進めるしかなかったという問題があり、そうした研究者の経験や勘に頼らない、新しい材料探索手法の開発が望まれていたとする。
そこで研究チームは今回、以前開発した人力の100倍以上の速度で電解液の調合とその電池性能評価を実施することが可能な電気化学自動実験ロボットに、データ科学的手法を組み合わせるという新手法を試みることにしたという。
今回の電解液の開発ターゲットとしては、酸素正極での溶媒分解に対する耐性が高いという特徴を有する「アミド系」の電解液が選ばれた。ただし、同電解液は還元耐性が高くないため、金属リチウム負極側では反応効率が低いという課題を持っていたことから、負極での反応効率を向上できる添加剤の開発が目指されたとする。
添加剤の探索は、15種類の化合物、2種類の濃度水準の候補の中から5種類を選定するという、1000万通り以上の組み合わせが対象とされたが、さすがのロボットでも、組み合わせのすべてを調べるのは時間がかかり過ぎるとのことから、まずはランダム探索として選定された4320種類のサンプルについて、その負極反応効率の実験的な評価を実施。その結果、添加剤を導入しない場合には、60.4%だった負極反応効率が、適切な添加剤を導入した場合には、86.1%にまで向上することが確認されたとする。
さらに、探索の効率化を図るため、局所最適値法やベイズ最適化といったデータ科学的手法を適用したところ、ランダム探索と比べてより高い負極反応効率を示す添加剤組成を発見。最大92.8%の負極の反応効率が達成されたという。
今回の研究では最終的には1万種類以上の評価が実施され、その中から有望な材料について、リチウム空気電池の長期サイクル寿命評価試験が実施されたという。その結果、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、臭化リチウム、塩化リチウム、ビスオキサラートホウ酸リチウム、1,3-ジオキソランの5種類で構成される添加剤を導入することで、充放電サイクル寿命が約2倍に増大することが発見されたとするほか、その伸びた理由としては、今回の添加剤が、リチウム負極と電解液との界面に安定な被膜を形成していることに起因することが考えられるとしている。実際、負極上に形成された被膜の組成が分析されたところ、Li2CO3やLi2Oといった、負極反応効率の向上に寄与するとして知られている化合物が高濃度で検出されたという。
さらに、添加剤成分のうち1種類でも欠けると、その反応効率が低下することも判明したことから、複数種類導入されている添加剤成分が協調的に機能することにより、高い反応効率が実現しているものと推測されたともしている。
なお、今回の手法について研究チームでは、リチウム空気電池用電解液のみならず、液体電解質を採用する二次電池各種に適用可能であることから、ナトリウムイオン電池やマグネシウム電池など、さまざまな二次電池用電解液材料開発への適用が期待されるとしている。