アルマ望遠鏡は3月23日、東アジア地域アルマ開発プログラムの重要な成果として、国立天文台(NAOJ)が運用するアタカマ・コンパクトアレイ(ACA、愛称:モリタアレイ)のトータルパワーアレイ向けの新型分光計が、「オリオンKL領域」からの「ファーストライト」に成功したことを発表した。
今回の新型分光計の開発は、NAOJと韓国天文宇宙科学研究院(KASI)の共同開発チームによるもので、5年以上の歳月をかけて実現された。
同分光計はGPU技術を基盤として開発されたもので、モリタアレイの口径12mアンテナ4台(TPA:トータルパワーアレイ)の観測データ処理を目的に、山頂施設に設置された。スーパーコンピュータでも普通に活用されるようになったGPUを用いることで、高い線形性、ダイナミックレンジ、スペクトル感度が実現され、明るい天体を取り巻く暗いガスのスペクトル線を正確に測定できるようになることが期待されると開発チームでは説明しているほか、機械構造がシンプルであるため、比較的容易に機能の拡張もできるというメリットもあるとする。
開発チームによると、TPAは、空に大きく広がった天体の明るさを高い精度で観測するために重要な役割を果たすものであり、TPAで観測されたデータは分光計によって処理され、のちにアルマ望遠鏡のほかのアンテナで取得されたデータと結合され、最終的に画像が生成される(これまでTPAのデータ処理はACA相関器が担っていたという)。
この新型分光計は、4台(+予備1台)のGPUサーバと1台(+予備1台)のGPUサーバの制御および新型分光計の監視情報の収集・保存、GPUサーバからアーカイブシステムへのデータ送信の役割を担う監視制御用サーバ、双方向スプリッタ、光信号増幅器で構成されており、各サーバには4枚のGPUカードと2枚のデータ収集カードが搭載。双方向スプリッタにて、光信号を新型分光計とACA相関器に分岐するが、その際の信号低下を補うために光信号増幅器が経路に設置されている。
天体からの信号を2つの偏波として受信し、2つの偏波の相互相関を計算するほか、4台のアンテナで受信した信号の相互相関を計算することが可能だという。また、ファーストライトに成功したオリオンKL領域は、太陽系に近い巨大分子雲(大質量星形成領域)で、およそ1300~1800光年ほどの距離にある。
今回、ファーストライトに成功したが、今後は2022年4月から5月にかけて性能検証と科学検証観測を行い、サイクル10の観測が始まる2023年10月から科学観測に使用される予定だという。
なお、東アジアアルマプログラムマネージャーのNAOJのアルバロ・ゴンサレス氏は、「新型分光計のファーストライトは、KASIとNAOJの共同開発において重要なマイルストーンであり、両機関の多くの人々の努力と合同アルマ観測所からの貴重な支援によって実現されたものです。世界的なパンデミックにより、現地での設置は困難を極めたため、ファーストライトのスペクトルを見ることができたのはとても喜ばしいことです。今後、さらなる試験が必要ですが、この新しい装置が提供する能力を、サイクル10から共同利用観測に提供できるよう、私たちは努力をしていきます」とコメントしている。