Zuoraは3月23日、サブスクリプションモデルのビジネスに関する動向を調査したレポートを公開し、記者会見を開催した。

同調査では、サブスクリプションモデルのビジネスを展開するZuoraの顧客企業の一部を匿名化し集計したSEI(Subscription Economy Index)を指標として用いている。SaaS(Software as a Service)、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、製造、出版、メディア、電気通信、ビデオカンファレンス、ビジネスサービスなど幅広い業界別データを網羅しており、サブスクリプションモデルを中心としたエコノミーの全体的な傾向を反映しているとのことだ。

過去10年間のSEIを見ると堅調に成長していることから、サブスクリプションビジネスの拡大がうかがえる。10年間のSEIの平均成長率は17.6%であり、S&P500に属する企業の同期間の成長率3.8%を大きく上回る。

サブスクリプションビジネスは、近年のコロナ禍のような先の予測が難しい市場においてもレジリエンス(適応力)を発揮している。むしろ、生活者の行動が変化したことで、企業が生活者の需要の変化に対応するためにサブスクリプションビジネスを採用する機運は高まっている。

  • サブスクリプションビジネスは過去10年間で大きな成長を遂げている 資料:Zuora

サブスクリプションビジネスにおいては、利用者の拡大と同様に顧客の維持も重要だ。そこでチャーンレート(解約率)に着目すると、2021年のチャーンレートは5.4%であり、2020年と比較して減少している。つまり、顧客を維持できている企業が増えているのだ。その要因は、利用者の解約を困難にしたためではなく、むしろ多くの企業が顧客中心のサービスを提供することで顧客を維持できるようになっているからだという。

  • チャーンレートは減少傾向にあるという 資料:Zuora

ここから紹介する結果は、APAC(アジア太平洋)地域における51社を対象に集計したものだ。同地域におけるSEIもグローバルの傾向と同様に成長が見られる。過去4年間では、日経売上高、香港売上高、ASX(オーストラリア証券取引所)売上高など、各地域の売上高指数を上回る17.9%の年平均成長率でSEIは推移している。

  • APAC地域におけるSEIも成長が見られる 資料:Zuora

業種別にサブスクリプションビジネスを見ていこう。まずはSaaSだ。SaaSのSEIは他業種と比較しても高いのが特徴だという。その背景には、ほかの業種よりも早くサブスクリプションモデルを導入したことがあると同社は見ている。

SaaS領域におけるトレンドは3点だ。1点目は「中間層の台頭」である。中国やインドを中心にITとSaaS領域が大きく拡大しており、特に中間所得層の購買行動が顕著になっている。このトレンドは今後も続くと予想される。

2点目は「クラウドの浸透」であり、クラウド技術やビッグデータを活用しながら会計や人事、サプライチェーン、文書管理などの企業ニーズに応えるスタートアップが増加しているそうだ。

3点目は「SaaSの付加価値追加」だ。ハードウェア企業の多くがデジタルサービスによるサブスクリプションビジネスの提供を開始しており、将来の新たな収入源を模索する動きが強まっているという。

  • SaaSモデルのSEIの伸長 資料:Zuora

  • SaaSモデルのサブスクリプションサービスにおけるトレンド

続いて、メディア領域におけるサブスクリプションビジネスの例だ。この領域には映画、音楽、出版物、ゲームなどのサービスを含む。特に2021年のSEI成長率は11.7%であり、コロナ禍以前の成長率を上回っている。

会見では、メディア領域のサブスクリプションビジネスについても、3点のトレンドが紹介された。1点目は「モバイルの浸透」だ。APAC地域ではほとんどの人がスマートフォンを優先して使用しており、モバイルアプリやWebサイトを利用した柔軟なサブスクリプションサービスの提供が顧客体験向上につながるとのことだ。

2点目は「成長するOTT(Over The Top)市場」だ。OTTとは、インターネット回線を通じてコンテンツを配信するようなストリーミングサービスを指す。動画ストリーミングの消費はAPAC地域で全体的に増加している。例として、NetFlixの加入者数が北米では頭打ちになっているようだが、APAC地域では大きく伸びているという。

3点目は「従来の出版社は収入源が大きく変化する見込み」ということだ。出版社の収益構造が印刷物からデジタルへと、そして、広告モデルからサブスクリプションモデルへと変化している。各国でのプライバシー保護の動きが強まる中で、メディア広告は今後コンテキスト広告へ移っていくと予想される。

  • メディアのSEIの伸長 資料:Zuora

  • メディアのサブスクリプションサービスにおけるトレンド

次は製造業界を紹介する。S&P500に属する製造業企業は2019年から8四半期連続でマイナス成長となった一方で、SEIは過去4年間で15.7%の年平均成長率だ。コロナ禍においても強いレジリエンスが見られた。

製造業界の1点目のトレンドは「サービタイゼーション」だ。製造業に関わる原料コストが高騰する中でマージンが圧迫されており、製造業企業はサービスを通じた新たな収入源を求めている。こうした企業が徐々にサブスクリプションビジネスに着手しているのだという。

2点目は「5G & IoTコネクテッドデバイス」である。5G(第5世代移動通信システム)の提供拡大によってAPAC地域におけるインターネットとの接続性が高まっており、これに伴ってIoT機器の台頭も目覚ましい。医療、建設、農業、自動車などの分野でコネクテッドデバイスが登場し、データの利活用が企業にもたらす影響が大きくなっている。サブスクリプションモデルでデバイスを提供し、オーナーシップを自社が保有することでデータを収集できれば、それらのデータを活用したさらなるビジネスの改善も見込める。

製造業界の3点目のトレンドは「自動車業界の大変革」だ。コネクテッドカーの出現など自動車のコネクティビティが向上することで、自動運転などの分野でさらなるイノベーションが期待される。自動車に関わるデジタルソフトウェアやEVバッテリー、あるいは自動車そのものなど、生活者のサブスクリプション利用はますます拡大するだろう。

  • 製造業のSEIの伸長 資料:Zuora

  • 製造業のサブスクリプションサービスにおけるトレンド

Zuoraが創立したSubscribed InstitudeにおいてAPAC地域の議長を務めるNick Cherrier(ニック シェリエ)氏は「この会見で紹介したSaaS、メディア、製造業に共通した具体的な提言がある。まず、サブスクリプションビジネスにおける俊敏性は、不確実な時代における対応力をもたらすだろう。加えて、サービスありきのビジネスを重視するのではなく、顧客中心のサービス設計が重要だ。顧客体験を中心とした設計がサブスクリプションビジネス成功になる」と述べていた。

同氏はさらに、「ビジネスの成功はまるで旅のようなものである」と強調したうえで、「サブスクリプションビジネスの初期段階に多くの顧客を獲得することはもちろん大切だが、長期的な成長のためにはビジネスの成熟度に応じて戦略を進化させる必要があるだろう」として、会見を結んだ。

  • Subscribed Institude APAC議長Nick Cherrier氏