デジタルと人間はどのように関わっていくのか――保険大手の東京海上グループではDXを考えるときに、人間との関わりという視点を大切にしているという。2月17日に開催された「TECH+ 金融セミナー DX推進から金融業界を変革する~『業務効率改善』と『新規事業の創出』の口火を~」では、東京海上ホールディングス 常務執行役員 グループデジタル戦略統括 生田目雅史氏が登壇し、「The Power of Digital x Human -東京海上グループのデジタル戦略-」と題して講演を行った。

DXの本質とは何か?

冒頭、生田目氏は視聴者に「デジタルがもたらす価値とは何ですか」と問いかけた。主なものとしてイメージされやすいのは精度(precision)、スピード(speed)、品質(quality)だろう。その他にも数値化(データ化)される、記録にできる、分析ができる、判別・識別ができるといった価値を挙げ、「デジタルには多様な価値創出の方向性がある」と自身の答えを示す。したがって、保険会社であれその他の事業体であれ、デジタルがもたらすいろいろな可能性をあらゆるかたちで考え続けなければならない、というわけだ。

  • 東京海上ホールディングス 常務執行役員 グループデジタル戦略統括 生田目雅史氏

時計を例に取ると、1921年にクオーツができ、その約50年後にデジタル腕時計が登場。現在はスマートウォッチに主戦場が移りつつある。手巻き時計時代、1秒間に8回もしくは10回だった振動は、クオーツ登場により3万2768回となり、精度が大幅に向上した。しかし、時計の世界は精度を高めるためだけに発展したのではない。デジタル時計にはタイマー、ストップウォッチ、電卓などの機能が組み込まれていき、スマートウォッチになると心拍数、血中酸素濃度などを測定する機能も持つようになった。

「(時計のデジタル化が)高精度という価値観の磨き込みのみに注力していたら、このような新しい世界は生まれなかったでしょう。DXにはならなかったのです」(生田目氏)

必要なのは「連続した努力」

さらにDXのポイントとして、既存の価値に縛られ過ぎると失敗する可能性があることを指摘しつつも、「新しい価値が組み合わせられないか、導入できないかと試行錯誤を行う中でこそ、トランスフォーメーションが生まれる」と力を込める。そして、新しい価値を組み合わせる時におろそかにしてはいけないのが、「課題設定をしっかりと作る」ことだという。

「課題解決の前に正しい課題を設定しなければ、正しい課題の解決につながりません。本当の課題は何かということにたどり着くと、それに応じたソリューションが見つかってくるものなのです」(生田目氏)

そのためには課題設定の“エクササイズ”が重要であり、そのエクササイズは人が行わなければならない。だからこそ、「DXにおいては人が重要」なのだ。

生田目氏はDXを「非連続のことを事業として取り込めるか、実現できるかというチャレンジ」だと捉えているという。

「デジタルでトランスフォームすることよりも、デジタルにトランスフォームすることの方が難しいものです。デジタルの変化は直前まで気付かず、ある日突然変化に気付くもの。DXにたどり着く前の日までは“連続の努力”をしなければなりません。連続した努力がいつかデジタルな変化につながる、非連続につながるんだと信じること、その熱意と感性こそがDXの本質なのではないでしょうか」(生田目氏)