日立三菱水力と日立製作所、日立産機システムの3社は3月23日、岩手県企業局の四十四田発電所(水力)の発電施設における保守・点検業務に対し、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)技術、現場メーターデータセンシングといったデジタル技術を活用したスマート化実証を行い、その第1フェーズを完了したことを発表した。
岩手県企業局と日立三菱水力は四十四田発電所における保守・点検業務のスマート化に向けた実証実験を2021年1月から行っている。2022年3月までの第1フェーズでは、日立グループの技術とノウハウを結集させ、デジタル技術を水力発電設備における保守・点検業務にも適用可能か検証した。その結果、業務における作業者の負担軽減による効率化や、設備状態に応じた点検時期の検討やこれまで発見できなかった故障原因の特定といった高度化につながったという。
この実証結果を踏まえて2022年度は第2フェーズとして、保守・点検業務の実際の運用における安全性・信頼性の担保や、日立グループのノウハウの横展開を予定している。これにより、デジタル技術を活用した保守・点検業務従事者が設備状態を分析して故障を回避することを目指す。そして2023年度以降、四十四田発電所のスマート化実証で得られた成果を、国内外の水力発電所へ展開していく考えだ。
同実証実験では、現場センシング・デジタライゼーションによる現場設備の遠隔監視を実施した。具体的には、計器の値や設備の稼働音を、カメラ機能やマイク機能を搭載した日立独自開発のレトロフィット無線センサーを用いて数値化し、遠隔で設備状態を確認した。
360度の全方位を1台で撮影できる全天球カメラや遠隔で水平方向・垂直方向・拡大・縮小の操作ができるPTZカメラを備えた自律走行型の巡視ロボットにより、事前に指定した走行経路を移動し現場設備の計器や制御盤の表示などを撮影する実証も行った。遠隔運転も可能で、固定センサーでは確認できない箇所も監視した。
将来的には、運転データをクラウド上で管理し、ダム管理などのデータとも連携し、ダムの水位と発電量の相関性を鑑みた経済合理的な水力発電所の運用支援へ応用していく考えだ。
また、現場データのAI分析による最適な運用改善の立案も行った。日立産機システムのIoT技術でエッジコンピューティングを実現し、現場側の運転データを使って、プラント運用および設備の状態変化に関する予兆診断モデルを実装した。この診断モデルの精度向上を図ることによって、最適な設備点検・修繕時期を示す指標として活用でき、適正に定期点検のスケジューリングや保守・点検業務内容を決めることで、保全業務の効率化と高度化を実現するとしている。
ほかにも保守・点検業務における手法・手順など、熟練技術者にしか蓄積されていないノウハウを、行動観察および技能伝承ワークショップを通して引き出し、見える化・デジタル化するなどの実験を実施したとのことだ。