「10歩に7歩は森林」と言われる日本で、実際に心身のストレス回復を目的に森林へと向かう人は一体どのくらいいるだろうか。
近年では、キャンプが流行し森林で余暇を過ごす人も増えたように思うが、依然として“残りの3歩圏内”で余暇を過ごし、ストレスのコントロールをしている人が多数派だろう。
そこで今回は、森林に行かずとも森林浴を味わえるデジタル空間に挑戦し、効果を実証した研究事例について紹介したい。
森林研究・整備機構森林総合研究所(森林総研)とフォレストデジタルの研究グループは、デジタル技術をつかって森林の風景・音・香りを屋内で再現した「デジタル森林浴」に生理・心理的な改善効果があることを明らかにした。
本研究の詳細は、科学ジャーナル「International Journal of Environmental Research and Public Health」誌でオンライン公開されている。
実験は、公募で選出された25名(男性12名:平均37.9歳、女性13名:平均34.5歳)の被験者を対象に行なわれた。
調査は、「血圧」「心拍数」「副交感神経活動」などの7項目を生理指標とし、”気分(POMS)”、”感情(PANAS)”、”回復感(ROS)”の3項目を心理指標とした。さらに、一般的な「環境条件」が私達の心身に改善をもたらすと考えられる具体的要素(回復特性と表現)、例えば「逃避したい気持ちが改善される」などが、デジタル森林浴に同様に含まれているのかを調べ、改善効果の起因について考察した。
方法は、デジタル森林浴の体験前に被験者の心理指標・生理指標の測定を行い、その後、20分ほどデジタル森林浴を体験し、心理指標・生理指標を測定。体験前後の心理指標・生理指標の比較を行った。なお、「心拍数」および「副交感神経活動」、「交換神経活動」については、被験者が実験に参加している時間を通して、ミリ秒(分解能)という非常に高速な測定を行った。最後に、PRS(Perceived Restorativeness Scale)を用いて回復特性についても調査した。
その結果、実験データにおいて、安静時と比較してデジタル森林浴の体験中に「副交感神経活動」が、体験前後の比較では「回復感」が有意に増加した。
また、「心拍数」と気分の「緊張-不安」、「抑うつ」、「怒り-敵意」、「疲労」、「混乱」、および感情の「ネガティブ感情」が有意に低下した。
そして、過去に行われた研究データ(調査者が保持していたもの)から、森林浴後の心理データを取り出し、デジタル森林浴体験後のデータと比較したところ、デジタル森林浴体験後の各効果は、実際の森林浴に近い水準であることが明らかとなった。
さらにその原因を探るために回復特性について比較すると、両者は同程度の高い回復特性があるため、心理的効果が得られていると推察された。
これらの成果より森林総研は今後、デジタル森林浴を都市部で活用することにより、コロナ禍で外出できない人々のストレス軽減や、病院施設などの移動困難者が多い場所でのリラックスする場の創出に繋がるとした。