欧州宇宙機関(ESA)は、ロシアと共同で進める火星探査計画「エクソマーズ」について、ロシアのウクライナ侵攻を受け一時停止すると発表した。同計画では2016年に火星軌道に投入した周回機に続き、探査車と着陸機を今年9月にもロシアのロケットで打ち上げる計画だった。
ESAは3月16~17日にパリで理事会を開き、ウクライナの状況を受け協議。「欧州の価値観を完全に尊重して宇宙活動を実施する政府間組織として、人的被害と悲劇的結果を強く遺憾に思う。宇宙の科学探査への影響を認識しつつも、加盟国がロシアに課した制裁と完全に軌を一にするところだ」との声明を発表した。
エクソマーズ計画をめぐっては、ロシアとの協力で探査機を今年打ち上げ、継続的に協力することは現状では不可能と判断。ジョゼフ・アッシュバッハー長官に対し、協力関係を一時停止し、欧州側が開発した探査車「ロザリンド・フランクリン」の計画を進める代替手段を速やかに検討するよう求めることを全会一致で決めたという。
エクソマーズは火星の生命の可能性の評価や、人類が進出するための基礎データの収集などを行う計画。2016年に最初の打ち上げがロシアのプロトンロケットで行われ、欧州の着陸実証機は失敗したものの、欧州の周回機「TGO」が大気の観測を続けている。続けて今年9月20日から10月1日までの間に、ロザリンド・フランクリンとロシアの着陸機「カザチョク」をプロトンで打ち上げる計画だった。ロザリンド・フランクリンはドリルで地下最深2メートルまで穴を掘り、生命の手がかりを探す。
火星探査機は、火星と地球が互いに接近する約2年ごとに、飛行距離が短くなる打ち上げの好機を迎える。このため今回の停止により、ロザリンド・フランクリンの打ち上げは早くとも2024年ごろになるとみられる。
エクソマーズ計画は一時、欧米の共同計画として進められたものの、2012年に米国が予算上の理由から離脱。翌年にロシアの参画が決まった。延期を経て、2020年夏にロザリンド・フランクリンとカザチョクの打ち上げを計画していた。さらに、開発の遅れや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けて今年に延期していた。ここに来て、計画はさらに苦節を強いられることとなった。
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