豊橋技術科学大学(豊橋技科大)は3月17日、大気中での安定性の問題から不活性雰囲気で扱う必要がある全固体リチウムイオン電池の硫化物系固体電解質の力学物性評価を行うには、グローブバッグでインデンテーション試験装置を覆いアルゴン(Ar)ガスを流入させることが有用であることを明らかにしたと発表した。
同成果は、豊橋技科大 電気・電子情報工学系の引間和浩助教、同・松田厚範教授らの研究チームによるもの。詳細は、エネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。
リチウムイオン電池(LIB)のさらなる高エネルギー密度化、長寿命化、安全性の向上、低コスト化が求められており、その実現技術の1つとして、電解液を固体電解質に置き換えた全固体リチウムイオン電池に注目が集まっている。
実用化まであと一歩のところまで来ているとされるが、まだ課題も存在しており、そのうちの1つが、電極複合体層での固体電解質と電極活物質の良好な固体固体界面の構築だとされている。全固体リチウムイオン電池は、正極活物質と固体電解質、導電助剤を混合した正極複合体上に、セパレータの役目をする固体電解質、負極複合体を積層させる構造で、充放電反応中において電極活物質が膨張・収縮して体積変化が起こるため、それによる悪影響を受けることなく、リチウムイオン輸送のために良好な接触状態を維持する必要があるとされている。
電極活物質と固体電解質界面の課題を解決するためには、電極活物質と固体電解質のマイヤ硬度や弾性率などの力学物性を定量的に理解した上で、材料の組み合わせや複合化割合を決定することが重要とされるが、代表的な固体電解質である硫化物系固体電解質は大気と容易に反応してしまうため、評価そのものが困難という課題を抱えていたという。
そこで研究チームは今回、インデンテーション試験による力学物性評価法圧子力学試験評価法に注目。同手法では微小な試験片において複雑な加工を必要とせず、圧子の圧入、除荷を行い、理論式に基づいて解析することでマイヤ硬度や弾性率などの重要な力学物性を得ることが可能であり、ナノインデンテーション試験(1μm以下が対象)と比べても圧入深さが数10μmと十分なため、表面状態に依存せず真の力学物性値の評価が期待できるという。
今回は大気と容易に反応するのを防ぐために、グローブバッグで試験装置を覆いArガスを流入させて不活性雰囲気にて、インデンテーション法による試験が行われた。力学物性の評価が行われた固体電解質は、「Li2S-P2S5」系硫化物系の「75Li2S-25P2S5」と、酸化物系の「Li0.33La0.57TiO3,Li1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12」で、評価試験の結果、硫化物固体電解質はマイヤ硬度がHM=0.66GPa、弾性率E=21GPaと求められ、その値は酸化物系固体電解質(HM=~7.5GPa,E=~200GPa)より小さく、全固体リチウムイオン電池の作製において優れた機械的性質を持つことが確認されたという。
不活性雰囲気下におけるインデンテーション試験は複雑な加工を必要とせず、微小な試験片に圧子の圧入、除荷を行い、理論式に基づいて解析するだけでマイヤ硬度や弾性率などの重要な力学物性を得ることが可能であることから、研究チームでは、同手法でさまざまな固体電解質材料の力学物性を評価し、データベース化することで、力学物性値に基づく全固体リチウムイオン電池設計への展開が期待されるとしている。