DXは「破壊的創造」とセットで語られ、伝統的な日本企業のやり方では通用しない、という論調になりがちだ。しかし、クレディセゾン 取締役 兼 専務執行役員 CTO 兼 CIO 小野和俊氏は、スタートアップ、大企業における双方の経営経験を踏まえ、「どちらの組織文化にも合理性があるため、双方のメリットを取り入れた『協調的創造』を目指すべき」と主張する。
既存事業の強みを生かしつつ、デジタル時代のスピード感と技術力とを手に入れて事業の強みにつなげていくには、どのようにすべきか。小野氏が、2月24日〜25日に開催されたオンラインセミナー「ビジネス・フォーラム事務局 × TECH+ EXPO 2022 for LEADERS DX Frontline ——変革の第一歩を」で解説した。
スタートアップと伝統的な企業の文化を融合させる
小野氏は、サン・マイクロシステムズでエンジニアとして勤務後、日本でベンチャーを起業し、データ連携ミドルウェア「DataSpider」を開発。2013年の資本業務提携により、セゾン情報システムズ HULFT事業のCTOへ就任したという経歴を持つ。
セゾン情報システムズ入社時の印象を小野氏は「人事評価や開発体制、カルチャーまで、何もかもがスタートアップやシリコンバレーと異なっていた」と振り返る。しかし、同社で働くうちに、日本の歴史ある大企業のやり方にも合理性があり、ベンチャーと大企業の文化を融合させて使い分けることの重要性を感じるようになったという。
そんなとき小野氏が出会ったのが、米ガートナーが提唱していた「バイモーダルIT」の考え方である。バイモーダルとは、高信頼性・安定性を重視した「モード1」と、柔軟性・速度重視の「モード2」という2つの流儀を使い分ける手法だ。
モード1の例が、ウォーターフォールである。大規模でかつ統率が取りやすいという特徴があり、小野氏は武士に例えて、「鎧などで武装しているため、外部からの攻撃に耐えられるが、機動力が低い。責任の所在を明確にしながら成果を出していくことが求められる世界において、予測可能なものに適している」と説明する。
モード2は、アジャイルが代表例となる。答えが見えない探索型の業務に適しているとする小野氏。忍者に例え、「鎧がないので機敏に動けるが、攻撃に対して致命傷を受けやすい」と解説する。
「モード1を守りながらモード2を取り入れると、お互いの欠点に目が行き文化的な衝突が起きてしまいます。これが、日本企業が抱えている課題のエッセンスの1つ。どちらが良いという話ではなく、両方を兼ね備える組織が強いのです。バイモーダルは自転車と似ています。どこに向かうべきかを模索する前輪がモード2。馬力の強さは後輪のモード1の方が大きくなります。両方が存在することで安定する仕組みなのです」(小野氏)