粘土のナノシートでできた膜でリンゴの表面を覆うと、リンゴの鮮度が保たれることを発見した、と物質・材料研究機構などの国際共同研究グループが発表した。膜には適度な大きさの隙間があり、果実の呼吸を程よく抑えることで腐敗やカビを防げるという。粘土は地上に豊富にある安価な物質であるため、将来の食料危機に備える長期保存技術になる、と研究グループは期待している。
粘土はケイ酸塩中のケイ素原子の一部がアルミニウムに置き換わっており、層状構造をしている。1層の厚みは約1ナノメートルだ。粉末を溶媒に分散させ、基板に滴下すると無色の膜になる。研究グループは粘土膜のガス透過度に着目。ナノシートの粒径が数十ナノメートルの場合には、同1マイクロメートル以上の場合よりも透過度が高くなることを確かめた。
実験では、ナノシートの分散液をリンゴの表面にかけ、乾燥させて成膜した。無処理のリンゴ、食品用ラップで包んだリンゴと比べたところ、数カ月後には無処理ないしラップのみで包んだリンゴは果肉の崩れやカビの発生があったが、粘土膜で被覆したリンゴに腐敗などは見られなかった。
粘土膜被覆の結果、外部からの酸素供給が少なくなり、腐敗やカビが起きにくくなることが分かった。研究グループは、果実の成長を促すエチレンの放出が抑えられたことも、腐敗防止の原因とみている。また、果実から外部に出る香気成分が減り、虫害や獣害を防げる可能性があるとしている。
長期保存後、ケイ酸アルミニウムは水で洗い流すことができる。もともと食品添加物の成分でもあるので、多少残留しても安全性に問題はない。物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点・メソスケール物質化学グループの江口美陽主任研究員は「粘土膜を流通に組み込めば、将来のフードロスを減らすことや毒性の低い防カビ剤として機能することが期待できる」と話している。
研究グループは物材機構のほか、豪クイーンズランド大学、国立台湾大学で構成。論文は英国の物質化学誌「ジャーナル・オブ・マテリアルズ・ケミストリーA」に掲載され、物材機構が8日に発表した。
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