宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月14日、米国航空宇宙局(NASA)の探査機「ドーン」(Dawn)が撮影した高解像度画像(35m/画素)を用いて、小惑星帯最大の天体である準惑星ケレス(直径約950km)における衝突クレーターのサイズ分布を、小惑星帯内における直径1km以上の隕石のサイズ分布から調査した結果、ケレスに衝突した隕石のサイズ分布がさまざまな年代において、月に衝突した隕石のそれとよく一致することが明らかになったこと、ならびにケレスに衝突した隕石の直径1km以下のサイズ分布は、現在望遠鏡によって観測される小惑星帯天体のサイズ分布とは大きく異なる傾向を持つことも明らかになったと発表した。
同成果は、総合研究大学院大学 物理科学研究科 宇宙科学専攻の大学院生でJAXA 宇宙科学研究所(ISAS)にも所属する豊川広晴氏、ISAS 太陽系科学研究系の春山純一助教らの研究チームによるもの。詳細は、太陽系外も含めて太陽系に関して天文学から生物学まで幅広い分野を扱う学術誌「Icarus」に掲載された。
火星軌道と木星軌道の間に位置する小惑星帯は、太陽系の内側に位置する月や地球型惑星へ衝突する隕石の主な供給源と考えられており、その根拠の1つとなっているのが、月や地球型惑星における衝突クレーターのサイズ頻度分布(どのくらいのサイズのクレーターがどのくらいの個数あるかを示す値)だという。
衝突クレーターのサイズとそれを形成した隕石のサイズの関係を仮定することで、隕石のサイズ頻度分布が推定することができ、月や地球型惑星における直径1km以上の衝突クレーターのサイズ頻度分布が、実際に望遠鏡観測されている直径1km以上の小惑星帯天体のサイズ頻度分布によく似ていることから、月や地球型惑星へ衝突した隕石の多くは小惑星帯から飛来してきたものであると考えられている。
しかし直径1km以下の隕石に関しては、月へ衝突した隕石のサイズ頻度分布は望遠鏡観測とは一致しないとするモデルも存在し、いまだ議論が続いている。小惑星帯から内側太陽系への小惑星帯天体の移動過程を明らかにするためには、内側太陽系だけでなく小惑星帯内での衝突史を理解することも重要となるが、小惑星帯内での衝突史はこれまでよくわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、小惑星帯で最大の天体である準惑星ケレスにおける衝突クレーターのサイズ頻度分布の調査を実施。ケレス表面に存在する約25万個の直径1km以上のクレーターの調査のために、NASAの小惑星探査機ドーンの高解像度画像を用いて、目視・手作業でのカウンティングを行ったという。
調査の結果、ケレスの表面全体における衝突クレーターのサイズ頻度分布は、月から類推されたクレーター生成関数モデルとよく一致するということが判明。これは、ケレス表面に衝突した隕石のサイズ頻度分布が月とよく一致することを意味するという。また、ケレスのさまざまな年代(モデル年代:約20億年前~約2億年前)の領域ごとにクレーターサイズ頻度分布を調査したところ、そのような月との一致が年代に依存しないこともわかったともしている。
しかしその一方で、衝突クレーターのサイズ頻度分布から推定される、ケレスに衝突した直径1km以下の隕石のサイズ頻度分布は、望遠鏡観測されている小惑星帯天体のサイズ頻度分布とは異なる傾向を持つことも判明。ケレスに衝突する隕石はサイズが小さいほど相対的に個数が多くなっているのに対して、望遠鏡観測されている小惑星帯に存在する天体は小さいものほど相対的に個数が少なくなっているという。
このようなケレスに衝突した隕石のサイズ頻度分布の、月との一致と、望遠鏡観測との不一致が同時に起きるプロセスは、既存の学説ではうまく説明することができないと研究チームでは説明しており、今回の研究で得られた結果は、太陽系内の小惑星帯天体の移動や衝突現象に関する今後の研究に新たな制約を与えることが期待されるとしている。