九州工業大学(九工大)と九州大学(九大)は3月14日、工業的に広く使用されている軽金属元素であるアルミニウム(Al)とチタン(Ti)の合金に巨大ひずみ加工を施すことで、絶対温度7K(約-266℃)という、両金属それぞれの転移温度よりも高い温度での超伝導状態を創出することに成功したと発表した。

同成果は、九工大大学院 工学研究院の美藤正樹教授が代表を務める、九工大と九大の共同研究チームによるもの。詳細は、米国応用物理学会の公式学術誌「Journal of Applied Physics」に掲載された。

超伝導材料を実用化しようと思えば、超伝導転移温度の高さに加え、容易に線材として活用しやすい特徴を有していることや、軽量、安価といったことが求められることとなり。これらの要件を満たした超伝導材料を創出することができれば、省エネルギー社会の実現に前進することとなることが期待されている。

市場に広く流通している軽金属元素としてAlやTi、マグネシウム(Mg)などが良く活用されているが、これらの元素を超伝導材料として見た場合、大気圧環境下において、Alが1.2K(約-272℃)以下で超伝導に、Tiが0.4K(約-273℃)以下で超伝導になるものの、Mgは超伝導にならないことが分かっている。

また、Al-Ti-Mgの三元系合金の状態図も調べられているが、金属間化合物として安定に存在する組成は数種類に限られており、準安定相を含めても超伝導転移温度が1.7K(約-271.5℃)を超える超伝導状態はこれまで発見されていなかったという。

そこで研究チームは今回、機能性物質開発の新たな潮流になってきているビッグデータを用いた機械学習を、Al-Ti-Mgの三元系における超伝導状態の探索に活用することにしたという。

具体的には、「金属系超伝導体の組成と超伝導転移温度に関するビッグデータ」を基に、Al、Ti、Mgの三元系に対して超伝導転移温度の予測を実施。その結果、10K(約-263℃)に迫る超伝導転移温度の出現が予測されたという。そこで、従来の加熱溶解による試料合成はすでに調べ尽くされていることを踏まえ、今回の研究では新たな手法として、巨大ひずみ加工による物質合成手法を用いて未知な構造での超伝導状態の発掘を試みることにしたという。

この手法により、本来は安定な金属間化合物とはならない組成を準安定化することに成功。実用化への可能性を秘めた新たな超伝導状態として、Al-Tiの組成比1:2の準安定相が7K(約-266℃)を超える超伝導転移温度を発掘することに成功したとするほか、機械学習の結果から、この準安定相には酸素が関与しており、Mgは超伝導を実現するには不要であることが予測されたとする。

これらの研究手法とそれによって得られた新しい知見は、まったく新しい安価な超伝導材料の合成方法を提案するものであるという。

今回の研究は、新たなアプローチを用いた試みであり、実際に従来の溶融による合金作製では達成し得なかった状態を実現させることに成功したことから、研究チームでは、安価で線材化が容易な軽金属超伝導材料のブレイクスルーに発展し得る研究だと説明するほか、機械学習は高い超伝導転移温度を実現する素性としてAl-Tiの酸化物の可能性を指摘しており、わずかではあるが、実際に90K(約-183℃)を超える温度でも超伝導らしき信号が観測されたとのことで、これは系統的な研究から、酸素を吸着しやすいTi粉末にもともと含まれている微量のTi酸化物を種物質とする力学的合成方法がポイントになっている可能性があるとしている。

また、研究チームでは今後、超伝導状態の体積分率を増やすことが課題だが、今回の研究成果は、応用面での波及効果のみならず、銅(Cu)酸化物に匹敵する潜在性がTi酸化物にもあることを示唆するものであり、革新的な学術的新規性を秘めているとしている。

  • 超伝導

    (左)機械学習によって予測された超伝導転移温度を表す三元系状態図。矢印で示されている組成比は安定相が存在するところであり、今回の研究ではそれから外れた、色付きの丸が示す組成比が予測・探索された。(右)Al:Ti:Mg=1:2:0の組成比で発見された3つの超伝導相の超伝導転移温度の直流磁場依存性。試料を加熱しながら巨大ひずみ加工を施すことで、ゼロ磁場下で7Kを超える超伝導転移温度が実現された (出所:プレスリリースPDF)