京都大学(京大)は、軟骨細胞内カルシウムイオン(Ca2+)動態を独自の手法で解析することによって、強力な骨伸長促進作用を持つ「C型ナトリウム利尿ペプチド」(CNP)が軟骨細胞内のCa2+シグナルを活性化し、骨を伸長させていることを発見したと発表した。

同成果は、京大 薬学研究科の宮崎侑大学院生、同・市村敦彦助教を中心に、京大 医学研究科、京大 メディカルイノベーションセンター、京大 工学研究科、岐阜大学医学部の共同研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「eLife」に掲載された。

細胞内Ca2+は、さまざまな生理機構に必須といえるほど重要なシグナル分子として働いていることが知られているが、その詳しい仕組みや、担っている生理的な役割がよくわからない細胞もいまだに多く存在しているという。

そうした中、研究チームは2019年、軟骨細胞が正常に機能し骨が伸びるためには陽イオンチャネル「TRPM7」を介して、自発的に細胞内に流入するCa2+が必要であるということを報告しており、これによりTRPM7を介した軟骨細胞内Ca2+シグナル経路を活性化することで骨を伸ばせることが予見されたほか、身体の中にもともと備わっている骨を伸ばす物質の作用に、軟骨細胞内Ca2+シグナル経路が関与していることが考えられるようになったという。

そこで今回の研究では、ヒトの臨床試験でも強い骨伸長促進作用が確認されているCNPに注目。CNPがTRPM7を介した軟骨細胞内Ca2+シグナルを活性化することで、骨の伸長を促しているのではないかと仮説を立て、実験が行われた。

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    スライス培養マウス軟骨細胞のカルシウムイメージング (出所:京大プレスリリースPDF)

その結果、CNPの持つ骨を伸ばす生理機能には、TRPM7を介した細胞内Ca2+シグナル経路の活性化が必要なことが確認されたとするほか、CNPが活性化する新たな軟骨細胞内シグナル経路として「NPR2-PKG(タンパク質リン酸化酵素)-BK(大コンダクタンスCa2+感受性K+)チャネル-TRPM7チャネル-CaMKII(Ca2+依存的酵素)」の同定に成功。Trpm7遺伝子の発現がCNPの骨を伸ばす作用にとって必要であったことから、今回同定されたシグナル経路がCNPの強力な骨伸長促進作用に寄与する重要なシグナル経路であることが示されたとする。

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    (上)1つの軟骨細胞から得られた、CNP1時間の処置による軟骨細胞内Ca2+シグナルの活性化(Ca2+濃度の経時変化)。CNPの刺激により、軟骨細胞内Ca2+の自発変動が濃度依存的に強くなった。同じナトリウム利尿ペプチドでも、骨を伸ばす作用のないANPはそのようなことは観察されなかった。(下)CNP処置によるCaMKIIの活性化。CNPの刺激により、Ca2+依存的に活性化されるCaMKIIのリン酸化が促された (出所:京大プレスリリースPDF)

また、同定された経路の下流分子であるBKチャネル活性化薬にもCNPに似た骨伸長促進作用が観察されたことから、今回同定したシグナル経路の活性を薬理学的に調節することによって、骨の長さを制御できるようになることが期待されるともしている。

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    CNPシグナル活性化による骨伸長作用とTrpm7遺伝子発現。(A)CNPの添加により、対照群マウス由来の中足骨は伸長したが、Trpm7遺伝子が働かないマウス由来の中足骨はその硬化が見られなかった。(B)CNPシグナル経路に関与する分子として、今回新たに同定されたBKチャネル活性化薬の添加によって、CNPと似た骨伸長効果が観察され、それもTrpm7遺伝子発現に依存していることが確かめられた (出所:京大プレスリリースPDF)

なお、研究チームでは、今後、解明された細胞内Ca2+シグナル経路を利用してCNPの作用を増強する手法を開発できるかもしれないとしているほか、BKチャネルやTRPM7チャネルといったシグナル経路に関与する分子の活性を調節することで骨を伸ばす物質が見つかることも期待されるとしている。また、今回同定されたシグナル経路は病的な状態だけではなく、定常的な状態においても骨を伸ばすために働いていると考えられるとしており、このシグナル経路の活性を調節することで、骨の長さを人為的に変え体格を制御できる可能性も考えられるともしているが、骨を伸ばす目的でイオンチャネルの活性調節薬を全身性に投与することは副作用を引き起こす可能性が予想されるため、実用に至るためには解決すべき課題が多く残されており、着実な研究により1つずつ克服していくことが必要としている。

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    成長板軟骨細胞におけるCNPシグナル経路 (出所:京大プレスリリースPDF)