アソビューはアウトドアスポーツやものづくり体験、遊園地や水族館、日帰り温泉など、450種類の遊びを予約できるサイト「アソビュー!」を運営するスタートアップだ。また、遊びを予約するコンシューマ向けサービスだけでなく、施設やサービスを提供する企業側にネット予約・顧客管理システム、購買データ分析BIツールなども「ウラカタ」として提供している。

いずれのサービスも、情報掲載時ではなく、実際に予約が行われた際にシステム利用料を徴収するビジネスモデルだ。

また同社は昨年の12月、三井不動産との新たなビジネス展開を発表した。そこで、代表の山野氏に、これまでのビジネス拡大のための施策や今後の展開、同氏が考えるスタートアップ成功のポイントを聞いた。

  • アソビュー 代表取締役 CEO 山野智久氏

代表取締役 CEO 山野智久氏は、大学卒業後リクルートに入社し、約3年間、人材コンサルティング営業や新規事業の立ち上げを行ったが、入社当初から起業を目指していたという。

「大学生のときから千葉でフリーペーパーのビジネスをやっており、社会にないサービスを提供して、いろいろな人に喜んでもらえるビジネスをやっていこうと思っていましたが、全国レベルでサービスをやっている会社で勉強したいと思い、リクルートに入りました。入社時から3年で独立することは決めていました」と山野氏は語る。

遊びの予約というビジネスを選んだ理由について同氏は、「私は旅行に行くのが好きですが、宿泊先は見つけられても、現地で何をすればいいのか困り、不便だと感じていました。世の中は不便なことを解決するとお金をいただけて、ビジネスが成立しますので、現地で何をするのかという問題を解決することがビジネスになると感じました。友達100人にこのビジネスについて聞いたところ、98人から賛同を得ました」と説明した。

  • 遊びの予約サイト「アソビュー!」

そして2011年03月、山野氏はカタリズム(現アソビュー)を3人で設立する。しかし、このときにはまだ、具体的なビジネスプランはなかったという。

「旅行先で何をしたらいいのかわからないという課題は、間違いなくあると思いましたが、解決方法としてのビジネスは1つではありません。当時、解決方法としていくつかのアイデアがあり、現在のアソビュー!がやっている遊びを予約するサービスや、料理レシピのクックパッドのような現地で周遊できる旅行のデータベースをつくるというアイデアもありました。実際にアソビュー!のあと立ち上げましたが、うまくいきませんでした。そのほか、全国の主要駅にあるインフォメーションセンターの機能をクラウドで提供するというアイデアもありました。課題は間違いないと思いましたが、当時はアソビューが成功するという自信はありませんでした」(山野氏)

そして同社は、2012年7月、現在のサービスの原型となる「あそびゅー!(β版)」リリースする。

現在はいろいろな予約ができるが、リリース当時は、旅行先のアクティビティが予約できることにこだわったという。

「現在はアクティビティが予約できるという認識が広がっていますが、当時はだれも知りませんでした」(山野氏)

予約サイトの場合、扱っている施設やサービスの数がある程度の規模にならないと採算をとるのは難しいが、同社は、地道に営業活動を行い、増やしていったという。

「当時は電話でしか予約できないものもありましたので、泥臭く、営業においてオンラインで予約ができるようになることによる経営の効率性や集客の拡大というメリット、現地のアクティビティに困っている人が多くいて、そのサービスがいかに魅力的かを説明していきました」(山野氏)

サービス開始から2年経った2014年くらいから、ビジネスが軌道に乗り始めたという。

「体験教室やモノづくり教室などのインドア体験の予約を開始したことが、スケールするきっかけになりました。最初はアウトドアのアクティビティを中心にやっていましたが、日本には四季があり、11月から3月は寒く、海や川で行うアウトドアアクティビティの予約はなかなか入りません。そこで、陶芸教室やそば打ち道場、ガラス工芸、アクセサリーづくりなどの体験教室を掲載していくことにより、季節変動が減り、採算がとれるようになってきました。これにより、年間を通じて売上を確保できるようになっていきました」(山野氏)

また、同社のサイトは、団体予約も可能にしている点が特徴だ。

「旅行会社が何かのアクティビティを予約する場合、電話で問い合わせることが必要でしたが、アソビュー!では団体OKかどうかも公開しています。小規模の旅行会社が利用しているケースや学校が行事として手配するケースもあります」(山野氏)

自社サービスの強みについて山野氏は、BtoB、BtoC両方やっていることだと語る。

同社ではBtoB向けのサービスとして、「ウラカタ」シリーズを展開している。予約管理システム「ウラカタ予約」、レジャー観光・文化施設様のチケットの電子化を支援する「ウラカタチケット」、購買データ分析BIツール「ウラカタ分析」などを提供する。これらのサービスは、企業からの要望が強かったことから、提供することにしたという。

「BtoCのサービスをやっている中で、『情報をリアルタイムで更新してください』、『締切をギリギリに設定してください』というお願いをするのですが、それは同時に契約施設様にとって業務工数の発生を意味します。そのため、予約在庫管理サービスを提供していかないと、より良いサービスの提供にはならないと気が付きました。そこで、企業側の業務課題を解決するために、『ウラカタ』を提供することにしました」(山野氏)

同社の事業が成長する中で、資金も集まり、累計55億円を資金調達してきた。それらは主に、人材の確保に利用してきたという。

「(資金調達ができたのは)企業の可能性を実績で証明し続けてきた結果だと思っています。最初の出資も、単に事業計画だけでなく、実際のサイトがあり、一定のトランザクションもあり、一定の水準で伸びていたことを証明していたので出資いただけたと思います。市場規模の大きさもデータとして証明できたことも大きいと思います」(山野氏) 一方で、他の観光産業同様、新型コロナウィルスでは、大きな打撃を受けた。

「非常に大きな影響があり、2020年4月の緊急事態宣言により、売上はほぼゼロになりました。また、資金調達にも影響が出て、もともと計画していたものがなくなったりしました。一方で、BtoBの事業を垂直立ち上げしてシェアを獲得、ピンチをチャンスにできたので、良い面と悪い面がありました」(山野氏)

同社では、危機を乗り越えるため、社員を従業員として籍を残したまま、他の出向先企業で働く在籍出向「雇用シェア」を実現し、人件費を圧縮した。この取組は、多くのメディアで取り上げられている。

「出向という手段を使い、雇用を維持しながら人件費の削減を行いました」(山野氏)

3つの大きな転機

山野氏は、会社創業から11年で、売上拡大につながる大きなターニンポイントは3つあったと語った。

1つは、上述した1つはアウトドアからインドアの予約に横展開した点。これにより、冬場の売上を確保した。2つ目は水族館や遊園地などチケットが必要な施設のチケット販売を展開した点。3つめはBtoBのSaaSのプロダクト「ウラカタ」の提供だという。

そんな同社だが、昨年の12月、三井不動産のCVCを含むVCからの資金調達を発表し、新たな展開を始めようとしている。

ダイバーシティ東京プラザでは、食事券とエンタメチケットのセット券、三井ショッピングパーク ラゾーナ川崎プラザではお買物券と川崎水族館のセット券、ららぽーとをはじめとする商業施設では電子チケットシステムを活用した福袋販売を行うなど、アソビュー!のサイトを通じた新しい顧客体験を提供していく。

「三井不動産さんとは、グローバル・ブレインさんからお声がけいただいたのが接点でした。われわれのビジネスは週末のお出かけ探しで利用していただいており、その行き先として、ららぽーとなどの商業施設もあります。最近ではショッピングモールも重要なお出かけ先となっており、消費者に紹介してどう行動を生み出していくが重要なテーマと考えていたときに、お話がありました。タイイングが互いに合致しました」(山野氏)

今後両社は商業施設だけではなく、データを活用した来街者への最適なコンテンツやサービス提案を通して、新たな街づくりを推進していくという。

そして山野氏は、さらなるビジネスの拡大に向け「BtoB向けSaaSビジネスである「ウラカタ」の機能をさらに強化していくという。

「アソビュー!で良質な在庫(リアルタイム更新や締切日の後ろ倒しなど)を提供しようとすると、レジャー施設やサービスの効率化が必要になります。そのためにSaaSの機能強化を図っていきます」(山野氏)

最後に山野氏はスタートアップが成功するポイントについて、「大切なのはビジネスを立ち上げることではなく、どのお客さんに価値を提供するかだと思います。世の中にないサービスで価値を提供することです。その手段としてスタートアップがあります、外してはいけないのは、どのお客さんが何に困っているかを知ることだと思います。そこを外さなければ成功すると思います」と語った。