早稲田大学(早大)は3月11日、漢方や生薬として広く親しまれている「春ウコン」(Curcuma aromatica)に含まれる生物活性成分として「Coronarin C」、「Coronarin D」、「(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dial」の3種類を同定し、そのうちのCoronarin Dには神経幹細胞から、脳の機能維持や可塑性に関与するグリア細胞の一種である「アストロサイト」への分化誘導を促進する活性があることを見出したと発表した。
同成果は、早大 理工学術院の大塚悟史招聘研究員(研究当時)、同・中尾洋一教授らの研究チームによるもの。詳細は、農業と食品の化学と生化学を扱う学術誌「Journal of Agricultural and Food Chemistry」に掲載された。
春ウコンに含まれる成分の1つであるクルクミンには、抗炎症作用や、抗酸化作用、神経保護作用などのほか、神経幹細胞の増殖やニューロンへの分化を促進する作用が知られているが、それ以外の春ウコンに含まれる成分における神経幹細胞の増殖、分化調節活性については良く分かっていなかったという。
一方、近年の研究から、アストロサイトがアルツハイマー病の原因タンパク質の1つである「アミロイドβ」の分解に関わっていることや、アストロサイトの機能異常やアストロサイト数の減少がアルツハイマー病やうつ症状などの神経変性疾患の発症に関与することなどが報告されるようになってきており、機能異常に陥ったアストロサイトの機能回復を標的とした神経変性疾患治療薬の開発が進められるようになっているという。
そこで研究チームは今回、「アストロサイトへの分化誘導を促すことで正常なアストロサイト数を増やす」という予防医学的な目標を設定し、未知の生物活性成分がまだ豊富に含まれていると考えられる春ウコンから、アストロサイトへの分化誘導促進活性成分を探索することにしたという。
具体的には、独自開発のマウスES細胞由来神経幹細胞のin vitro神経分化誘導システムによるアッセイ系を用いて、神経幹細胞からアストロサイトへの分化誘導を促進する活性成分の探索を実施。その結果、3種類の化合物「Coronarin C」、「Coronarin D」、「(E)-labda-8(17),12-diene-15,16-dial」が活性本体として得られたという。
このうち、Coronarin Dがもっとも強くアストロサイトへの分化誘導を促進し、コントロール比でアストロサイト分化率が約3倍に増加することを確認(残りの2種類は、コントロール比で約1.3倍と約1.45倍ほどであったという)。また、構造-活性相関解析の結果、アストロサイトへの分化促進活性には二環性部分に加えて、「15-ヒドロキシ-Δ12-γ-ラクトン」構造に含まれる二重結合の位置が重要であることも示唆されたとした。
アストロサイトへの分化誘導過程で活性化されるシグナル経路の1つにJAK/STAT0シグナル経路があることから、Coronarin Dが同シグナル経路を活性化させるかどうかを調べたところ、Coronarin Dはコントロール比でpSTAT3陽性細胞率を増加させており、JAK/STATシグナル経路を介してアストロサイトへの分化誘導を促進している可能性が示唆されたとする。
研究チームでは、Coronarin Dを食事やサプリメントを通して継続的に摂取することで、加齢による神経変性疾患に対する予防効果が期待できるとしているほか、Coronarin Dは安全性が確認されている天然成分として、医薬品開発への応用も期待されるとしている。
また、Coronarin DがJAK/STATシグナル経路を介してアストロサイト分化を促進している可能性が示唆されたことから、今後はこのシグナル経路に関与する遺伝子群や種々の生体分子に注目してCoronarin Dの精密な作用機序解析を行う必要があるとするほか、今後はヒトiPS細胞由来の神経幹細胞を用いてヒト細胞における活性の確認や、動物モデルを用いたin vivo活性の評価を行った上で、臨床応用に向けた知見を積み重ねる必要があるとしている。