産業技術総合研究所(産総研)と日本精化は3月9日、ペロブスカイト太陽電池に使われる有機ホール輸送材料として、ドーパント(添加剤)を使用せず、高い光電変換効率が得られる新規材料を開発したと発表した。
同成果は、産総研 ゼロエミッション国際共同研究センター 有機系太陽電池研究チームの村上拓郎研究チーム長、同・小野澤伸子主任研究員、日本精化の共同研究チームによるもの。詳細は、3月25日開催の「日本化学会 第102春季年会(2022)」にてオンライン発表される予定だという。
太陽光発電の日本でのさらなる導入拡大に向けて必要とされる低コスト化と太陽電池の軽量化を実現できるものとして期待されているペロブスカイト太陽電池。ペロブスカイト結晶の原料となる溶液を塗布することや印刷などにより積層させて製造することが可能であるため、低コスト化を図ることができるほか、シリコン系太陽電池に比べて薄く、フィルム化できるため、曲げることなども可能であるため、さまざまな場所に設置することができるとされている。
その発電性能に関しても、すでに1cm2程度の研究用セルであれば、20%以上の光電変換効率が得られているが、材料となる有機ホール輸送材料は、ドーパントなしではホール輸送能力を示すホール移動度が小さいため、リチウムイオンなどのドーパントを混合し、ホール移動度を約10倍ほど向上させることで、高い光電変換効率を得ているという。しかし、そのドーパントが熱や光、湿気に対する耐久性を低下させる原因になってしまうこともあることが知られており、ドーパントを添加せずに高い効率が得られるホール輸送材料の開発が求められていた。
ペロブスカイト太陽電池の有機ホール輸送材料である「Spiro-OMeTAD」は、分子の先端に酸素とメチル基から成る「メトキシ基」を持っており、メトキシ基を窒素とメチル基から構成される「ジメチルアミノ基」に変えることで、分子内に電子を送り込む機能(電子供与性)を向上させることが可能であることが分かっている。今回、研究チームは、分子内から電子を引き出す機能(電子吸引性)が高いシアノ基を分子の中心に近い位置に導入することで、ホール輸送材料内部の電子が広く動けるとの考えを元に、新たなホール輸送材料の合成が進められたという。
その結果、開発された新規ホール輸送材料と、高い変換効率が期待されるペロブスカイト[Cs0.05(FA0.85MA0.15)0.95Pb(I0.89Br0.11)3]と組み合わせられた場合、変換効率が18.7%に達することが判明したほか、この新規ホール輸送材料は、一般的なホール輸送材料(厚さ100~200nm)と比べて、薄膜化(厚さ30~50nm)が可能であることも判明し、低コスト化にもつながることが期待されると研究チームでは説明する。
また、未封止の太陽電池に対して耐久性試験の1つである85℃における耐熱試験を行ったところ、電池の初期性能が1000時間ほぼ維持されることが確認されたともしている。
なお、研究チームでは今後、さまざまな分子構造を持つ新規ホール輸送材料を合成・比較し、ドーパントなしのホール輸送材料の高性能化による太陽電池性能のさらなる向上を目指すとすることに加え、さらなる耐熱性の向上に加えて、耐湿性、耐光性試験によって実用に資する長期安定性を実証するとしているほか、ペロブスカイト組成の最適化や劣化抑制技術、封止技術の導入などにより、寿命20年以上の高効率ペロブスカイト太陽電池を開発するともしている。