グリッドは、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)時代に対応可能なデジタルツインシミュレータ「ReNom GX」を開発したと発表した。
AIとデジタルツイン技術を活用することで、製造業やサプライチェーンの脱炭素化と、経済コストの最大化を両立するシナリオプランニングを行えるのが特徴で、複数のシナリオのなかから、CO2削減と生産コスト削減の最大化する最善のシナリオを選択することができる。
グリッド 事業開発部 取締役本部長の中村秀樹氏は、「脱炭素に関するツールの多くは、CO2排出量の見える化やレポート作成に留まっている。ReNom GXでは、コスト削減にまでつなげられるような様々な指標を立てることができ、CO2削減、生産コスト削減、マーケティングなどを含めた総合的な計画立案が可能である。企業経営に役立て、サステナブルな事業成長を支援していくことができる」とする。
企業の工場などのリアルな企業活動をデジタル上に再現するデジタルツインと、未来を予測しながらも1つの予測に頼るのではなく、複数のシナリオを立てて、各種KPIを比較しながら、プランを運用することで、脱炭素化に取り組むことができるという。
具体的には、将来の企業活動で排出されるCO2排出量だけでなく、生産コストや売り上げ、利益などの経営指標として重要な項目を可視化し、予測する。これらを複数のシナリオとして提示。その中から最も良い選択肢を選ぶことで、CO2排出量の削減と生産コスト削減の両方を可能にするという。
シミュレーションの実施については、Excelファイルから設定データや関連データなどを入力。様々なシナリオの中から可視化したいシナリオを選択すると、自動的に上振れ、下振れのシナリオを生成し、複数パターンを提示する。シナリオは直感的に理解できるようにグラフィカルに表示される。その上で、デジタルツインにおけるシミュレーションを実施。設定した条件と選択した複数の需要パターンに基づいて、サプライチェーンをはじめとした企業活動をシミュレーションする。
選択したシナリオが時間軸によってどう動いていくかといった結果も確認できる。さらに、選択したシナリオの実行シミュレーションの結果、工場や生産ライン単位といった詳細なKPIが一覧で表示され、各指標を比較検討することで、CO2削減や生産コストの効率化などにつなげることができる。
「シミュレーション結果は、次の一手や、将来の計画立案に向けた経営戦略の素材としても利用することができる」とした。
また、運用においては、計画に対して必要以上のCO2排出量になったり、生産コストが上昇すると事前に予測される場合には、担当者や関係部門にアラートを発信するといった機能も持つ。
グリッドでは、出光興産との協業で、内航船の配船計画の最適化において、デジタルツインを活用。AIにより、需要や生産計画をもとに配船計画を立案し、未来を見据えた最適化を可能にしている実績がある。ここでは、配船計画時間が60分の1となり、輸送コストが20%削減し、経済的メリットがあった。ReNom GXでは、ここで培ったデジタルツイン技術を活用しているという。
また、シナリオプランニングでは、予測結果を1つに限定して示すのではなく、複数の選択肢を提示するとともに、CO2の削減が、売上げや利益、在庫、投資といった本業への影響を様々な角度から考慮した複数シナリオを検討できるようにすることで、シナリオごとのオペレーション方法を備えておくといったことも可能になるという。
「製造業やサプライチェーンの分野では、需要予測に基づいて、様々な工程での意思決定が行われ、計画を立案しているが、VUCAの時代においては、1つの需要予測に依存したままでは、リスク回避や生産計画の効率化は難しく、CO2削減に取り組みながら企業成長を維持することは困難である」とし、「ReNom GXでは、2週間後を想定した製造ラインにおけるコストの振れ幅と、CO2排出量をAIで予測できる。欧州からの調達が難しくなったり、石油価格が高騰したりといった外的要素などを反映させ、ポジティブな予測とネガティブな予測ができる。それらをもとに、人が最適なプランを選び、実行する。グリッドでは、様々なプロジェクトにおいて、シナリオプランニングのノウハウを蓄積しており、数多くのアルゴリズムを持っている。これらを組み合わせた提案が可能になる」としたほか、「将来的にはAIが自動的に指示を出していくことも想定している。今後は、電力会社と協業してきたノウハウを活用し、エネルギー調達やCO2排出量の状況を見ながら、足りないエネルギーを最適な形で調達していく提案も可能になる」という。
ここでは、ReNom GXの対象範囲を、需要側だけでなく、供給側にも拡大し、再生エネルギーを含めたエネルギー供給側の市場を考慮した最適なエネルギー供給を実現し、グリーンエネルギー活用の促進に貢献していくことも可能になる。
製品構成は、特定の商品や領域に絞り込んで、脱炭素化に取り組みたい企業を対象にした「Light版」、任意の範囲や企業全体で脱炭素化に取り組みたい企業向けの「Standard版」、グローバル企業や基幹システムとの連携を行いたい大手企業を対象にした「Enterprise版」を用意。価格は、Light版で年間数100万円規模を想定している。
今後1年間で100社への導入を見込んでおり、「すでに、保険会社やリース会社、コンサルティング会社からの問い合わせが増えており、それらの企業の顧客への導入が見込まれている。将来的には1000社、1万社への導入を想定できる」としたほか、「Light版に対するニーズが高いと考えている。SaaSとして提供することで、導入の敷居を下げ、まずはやってみたいと考えている企業に提案していく。Light版は、一部の製品や一部の工場などで、デジタルツインやシナリオプランニングを実行したい企業が対象になるほか、取引がある大手企業からの要請により、脱炭素化に取り組まざるを得ない中小企業などにも提供したい。ニーズにあわせて、オンプレミス版も提供する計画である」と述べた。
また、Light版では、業界ごとに対応した製品も、順次、揃えていく考えも示した。「今後半年間をかけて、様々な業界な人たちとの連携を進めて、業界ごとに対応した製品を提供していくことになる」とした。
環境に対する意識の高まりを背景に、企業活動においてはサステナビリティへの取り組みは避けては通れないものとなっている。
グリッド 事業開発部 取締役本部長の中村秀樹氏は、「脱炭素への取り組みは様々な形で行われており、上場企業の多くで、脱炭素に向けた目標数値を掲げている。だが、制度の内容が頻繁に変更され、そこに苦労している実態も浮き彫りになる。半年前には宣言するだけでよかったものが、現在では細かいエビデンスを提出することが求められたり、具体的な手法を提出することが求められたりしている。東証のプライム市場に区分される企業では、気候変動による財務状況への影響を明示する必要があるなど、企業にとっても複雑性が増しているのが現状だ」と指摘する。
同社が大手企業を中心とした約100社にヒアリングしたところ、見える化する際に、取引会社を含めたサプライチェーン全体の連携が難しいこと、CO2削減における生産コスト負担の影響が可視化しにくいこと、計画を策定しても外的要因の影響で計画の変更を余儀なくされやすいこと、報告義務やステークホルダーからのレポート提出が求められているもののその作業に手間がかかること、再生エネルギーの調達などの進め方がわからないといった課題があるという。
「脱炭素に関するツールは、市場には多数あるが、CO2削減だけでなく、生産コストの削減にまで踏み込み、将来に向けて複数のシナリオを立てて、企業成長を実現するツールはほかにない。ReNom GXによって、脱炭素に関連して企業が持っている課題を解決できる」とし、「コロナ禍やウクライナ情勢、自然災害などの不確実な未来のなかでの企業成長と、CO2削減への対応を求められているなかで、ReNom GXでは、あらゆる社会変化を想定し、AIによって実現確率を算出した複数の需要予測をもとに、将来の事業計画におけるCO2排出量や、コストの変化などをシミュレーションすることで、最適なシナリオ選択の意思決定を可能にする。これまでサプライチェーンを対象としたシミュレーションの多くは、範囲が広大であるため、特定の工程のみの再現にとどまってたが、ReNom GXでは、Scope1、2、3を網羅したサプライチェーン全域をシミュレーション範囲として再現できる。これにより、サプライチェーン全体での最適化を実現することが可能となり、産業界のCO2削減とコスト最適化が可能になる」とした。