大阪大学(阪大)と科学技術振興機構(JST)は3月8日、ロボットやドローン、自動車などのさまざまな物理システムを計算機(情報システム)で管理し制御する「サイバーフィジカルシステム(CPS)」において、多種多様かつ複雑なタスクを実行するための制御機能を低コストで学習できる新たな人工知能(AI)技術を開発したと発表した。
同成果は、阪大大学院 工学研究科の橋本航大学院生、同・橋本和宗助教、同・高井重昌教授らの研究チームによるもの。詳細は、IEEEが刊行するロボット工学と自動化技術に関する学術誌「IEEE Robotics and Automation Letters」に掲載された。
近年、物理システムに対し与えられたタスクをリアルタイムで実行し続ける制御機能(コントローラ)について、AIで実行するための機械学習手法に関する研究が急速に進歩しているが、自動運転に代表されるような複雑かつ高度なタスクの数は膨大であり、個々のタスクに対し学習モデルを構築することはメモリ消費を中心とするコストの観点から実用的ではないという課題があった。
そこで研究チームでは、CPSで想定される多種多様なタスクを実行するコントローラを、統一的かつ省メモリで学習する新たなアプローチを提案しているという。このアプローチでは複雑かつ高度なタスクを、様相論理:∧(かつ)∨(または)などに加え、時相論理:F(いつか)、G(ずっと)などの論理演算子を用いた論理体系である「信号時相論理」(STL)により記述しており、これによりCPSにおける幅広いタスクを形式的に(計算機に読み取り可能な形で)、記述することが可能となるという。
今回の研究は、STLで記述される多様なタスクを実行できるコントローラを、ニューラルネットワークを用いて学習することを目指したものとなるが、複数のSTLタスクに対応する場合、既存手法ではタスク数が増えれば、それだけ学習に必要な計算時間やメモリ量が増大する可能性があることから、今回、提案された手法では、STLタスクをベクトルに変換するニューラルネットワーク(STL2vec)を構築し、そうして変換されたベクトルをセンサ情報とともに入力として用いるニューラルネットワークを学習することで、タスクの数に関わらず、STL2vecとコントローラ用の2つのニューラルネットワークのみ学習する形とシ、学習に必要なメモリ消費の削減を図ったとする。
またSTL2vecにより出力される制御仕様のベクトル表現はタスク同士の類似度を捉えるように学習されるため、単純に各タスクに任意の整数などを割り当ててコントローラへの入力として用いる場合と比べ、学習効率を改善することが期待できるともしている。
実際に行われた数値実験では、自律型移動ロボットの制御問題を考え、約200種類のSTLタスクを一度に学習するシミュレーションを実施。その結果、従来法に比べメモリ消費量を1/24に削減することに成功したという。
今回のアプローチの主要ポイントは、STLで記述されるタスクをベクトルに変換するニューラルネットワークを、タスク同士の類似度を定量的に評価することにより学習したことだと研究チームでは説明しており、これより、従来法に比べ、多種多様かつ複雑なタスクに順応したより柔軟性の高いコントローラを、低コストで学習することが可能となるとしている。
また、提案された手法は、ダイナミクスを持つどのような制御システムに対しても適用可能であるともしており、自動運転のみならずロボットの制御、化学プラントや電力プラントといったプロセス系の制御など、CPSにおけるさまざまな応用分野への展開が期待できるとしているほか、アプローチとしても、理論計算機科学、制御工学、機械学習の3つの分野を融合した新たなものであることから、学術的な側面からも新しい展開が期待できるともしている。