九州大学(九大)病院と福岡市民病院は3月8日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの2回接種者の抗体価ならびに副反応の程度、解熱鎮痛剤の内服状況などを調査した結果、副反応の程度に関わらずワクチン2回接種で十分な抗体反応が観察されたことに加え、2回接種後に発熱した人は、発熱しなかった人と比べて抗体価が高い傾向にあり、特に38度以上となった人は37度未満の人に対し、平均で約1.8倍の抗体価が認められたこと、また、副反応出現後であれば、標準的な解熱鎮痛剤を使用してもワクチン接種による抗体反応への悪影響は認められなかったことを確認したと発表した。
同成果は、九大大学院 医学研究院 病態修復内科学講座の赤司浩一教授、九大病院 グローバル感染症センターの下野信行センター長、同講座の鄭湧助教、同講座の谷直樹大学院生、福岡市民病院の桑野博行院長らの共同研究チームによるもの。詳細は、ワクチン学の関連分野全般を扱う学術誌「Vaccine」に掲載された。
新型コロナワクチンは、発熱などの副反応が出やすいとされており、そうした症状の軽減を目的に、ワクチン接種後に解熱鎮痛剤が渡されるといった動きもある。しかし、副反応の程度とワクチン接種後の抗体反応の強さの関係性はいまだ議論が続いており、また解熱鎮痛剤の使用が抗体反応にどのような影響を及ぼすのかについても、十分に調査されていなかったことから研究チームは今回、福岡市民病院職員486名(研究時点)のうち、428名の新型コロナのスパイクタンパク質に対する、「IgG抗体」(IgG(S-RBD))の測定を行うことにしたという。
そのうち、ファイザー製mRNAワクチンを2回接種し、かつ2回目接種から十分な期間(14日以上)が経過した職員から、新型コロナの既往がある、または過去の感染が示唆される職員とワクチン接種前24時間以内に解熱鎮痛剤を内服した職員を除外した合計335名が最終的な研究対象とされた。
ワクチン接種後の副反応(発熱、倦怠感、頭痛、注射部位の痛みや腫れなど合計13項目)が調査され、それらの副反応に対して使用した解熱鎮痛剤の薬剤名や服用のタイミング、内服量の情報を収集、副反応の程度や解熱鎮痛剤の内服が抗体価に与える影響が解析されたところ、2回目接種後の発熱や倦怠感、頭痛、悪寒といった全身反応を生じると抗体価が高い傾向にあることが確認。統計解析により、最終的に2回目接種後の発熱だけが抗体価と独立して相関することがわかったという。
また、発熱が強いほど抗体価が高く、2回目接種後に体温が38度以上に上昇した集団の抗体価の平均は、37度未満の集団と比較して約1.8倍であり、この傾向は性別、年齢別に層別化しても認められたとする。ただし、発熱のなかった集団においても2回接種後には十分な抗体産生が認められており、発熱がないからといって十分な抗体産生が行われていないわけではなかったともしている。
さらに、対象者の約45%がワクチン接種後になんらかの解熱鎮痛剤を内服していたことが、解熱鎮痛剤を内服しなかった集団と比較して、内服した集団の抗体価が低いということはなかったという。
使用された解熱鎮痛剤の種類はアセトアミノフェンが約46%と最多で、次にロキソプロフェンで約28%となっていたが、使用した解熱鎮痛剤の種類による抗体価の有意な差はなかったとするほか、解熱鎮痛剤の内服タイミングごとの検討でも抗体価の有意な差は認めず、副反応出現後であればワクチン接種後から解熱鎮痛剤内服までの時間は、抗体反応に大きな影響を及ぼさないことが示唆されたとする。加えて、発熱の程度ごとにおける解熱鎮痛剤による影響検討から、発熱の有無に関わらず、解熱鎮痛剤を使用した集団においても十分な抗体産生が得られていることが確認されたともしている。
なお研究チームでは、今回の成果について、副反応を恐れてワクチン接種を控えている人たちにとって、副反応に関する正確な情報を提供し、ワクチン接種に関する認識の向上に資する可能性があるとしている。