豊橋技術科学大学(豊橋技科大)は3月7日、MEMS技術を用いて作製したチップ上で、超低濃度の腫瘍マーカーを検出可能な半導体センサを開発し、前立腺がん抗原のみを検出することに成功したと発表した。

同成果は、豊橋技科大 電気・電子情報工学系の前田智也大学院生、同・髙橋一浩准教授らの研究チームによるもの。詳細は、センサの科学技術に関するオープンアクセスジャーナル「Sensors」に掲載された。

唾液、血液、尿などの体液に含まれていて、特定の疾患に応じて濃度変化が起きる物質(バイオマーカー)の検出には、主に血液が用いられるが、最近では、より低侵襲ながんリスク検査として、唾液によるマーカースクリーニングも用いられるようになってきた。

ただし、実用化されているマーカー検査装置は、標識剤を用いて色の変化を読み取る検出方式が主流であり、標識を行う時間と手間がかかるため比較的大型な装置が多く、規模の大きい病院などでの検査に限定されるという課題があった。

こうした背景を踏まえ、研究チームは、MEMS技術で形成したフレキシブルに変形するナノシートを用いて病気の有無を判断するマイクロ検査チップの研究を進めてきた。ナノシート上に、検出対象のマーカー(抗原)分子をつかまえる抗体をあらかじめ固定しておき、そこに吸着した抗原同士が電気的に反発する力により生じる薄膜の変形を読み取るという原理が採用されているという。

しかし、生体分子の吸着に対して敏感に変形するように設計されたセンサでは、抗体の固定化処理で膜が劣化してしまうといった課題があったとする。そこで、今回の研究では、従来手法から使用材料を変更し、CVDを用いて堆積させる手法を採用することで、従来より薄く、かつ均一で劣化の少ないセンサチップの開発に成功したという。

また、実際に開発されたバイオセンサを用いて、前立腺がんバイオマーカーの検出実験を行ったところ、1ml中に含まれる100agの抗原の検出に成功したという。この検出下限濃度は、標識剤を使った大型の検査装置と比較しても同程度の値であり、携帯可能な規模の検査装置で超高感度な検査が期待できるとした。

さらに、分子の吸着によりナノシートが変形していく様子をリアルタイムで検出することが可能であるため、標識剤を使った検査装置と比較して病気由来の分子を迅速に検出することも可能だとする。

研究チームは今後、持ち運び可能な検査装置の実用化に向け、分析用集積回路を一体化した半導体センサ上でバイオマーカーを検出できることを実証していく計画だという。また、ナノシートの表面に修飾するプローブ分子を付け替えることによって、複数種類の網羅的な病気診断が可能となり、早期発見につながることが期待されるともしている。

  • 半導体センサによる前立腺がんマーカー検知

    (左)抗原分子をナノシート薄膜表面に捉えて検出する半導体センサの概要。(右)マーカー吸着時の膜の変形量に比例するセンサの出力値を表すピークシフト量 (出所:豊橋技科大プレスリリースPDF)