東大、血液に触れると瞬時に固化して止血できる合成ハイドロゲルを開発

東京大学(東大)は3月7日、血液と接触した際に、瞬時に血液を巻き込んで速やかに自己固化して止血する合成ハイドロゲルを設計したこと、ならびに実際にラットの下大静脈大量出血モデルにおける試験にて、1分間ほどで安定した止血効果が得られることを確認したことを発表した。

同成果は、東大医学部 附属病院 血管外科の大片慎也病院臨床医、同・保科克行准教授、東大大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻の鎌田宏幸特任研究員(主任研究員)、同・酒井崇匡教授らの研究チームによるもの。詳細は、血管外科の臨床的および実験的研究を扱う学術誌「Annals of Vascular Surgery」に掲載された。

外科手術では出血の制御が重要であり、軽度なものは自然な血液凝固反応に任せる形だが、太い静脈や動脈からの出血に対しては止血剤を併用した圧迫止血が行われることとなる。しかし、がん、妊娠、感染症などによって播種性血管内凝固症候群を併発している場合、大規模な組織損傷、抗凝固薬投与下での針穴からのにじみ出るような滲出性出血など、止血が困難な状況もあるという。そうした場合には、止血剤を併用した圧迫止血が行われ、血液凝固反応を加速させる方法が採られる。

ところが既存の止血剤には、予備的な出血制御・追加圧迫に長い時間を要する、もしくは、ヒト血液成分を使用しているために未知のウイルスによる感染症伝播の否定ができないといった課題が残されており、外科手術における医師・患者双方に負担となっているという。

そうした背景を踏まえ、研究チームは今回、血液などの体液と接触した際に速やかに自己固化する合成ハイドロゲルを設計することに挑戦。その結果、はじめは液体だが、主成分である4分岐型のポリエチレングリコール(PEG)が徐々に反応することで固体となるハイドロゲルの合成に成功したとする。

• 合成ハイドロゲルの構造と血液接触時の即時固化機構 (出所:東大プレスリリースPDF)

この反応は、弱酸性で制限され、中性で速いという特徴があるため、弱酸性の合成ハイドロゲルと血液のような体液が接触すると、体液にある緩衝作用によって、瞬間的に合成ハイドロゲルが中和され、瞬時に体液を巻き込んだ固化を引き起こすことができるという。実際に、抗凝固薬を加えたラットの血液に対し、今回開発された合成ハイドロゲルを接触させたところ、血液ごと瞬時に固化することが確かめられたとした。

また、ラットの下大静脈大量出血モデルにおいて、合成ハイドロゲルをPEGからなるスポンジに浸漬させた状態で適用し、1分後の止血性能を評価したところ、圧迫止血および既存の止血剤は止血に至らなかった一方で、ある一定のPEG濃度以上において、安定的な止血効果が得られることが示されたとするほか、止血から1週間後に再び開腹し、適用部位の組織学的評価を行ったところ、合成ハイドロゲルによる止血は、既存の止血剤よりも軽度な炎症反応に収まることがわかったとした。

• 合成ハイドロゲルを用いたラット下大静脈の止血の様子 (出所:東大プレスリリースPDF)

今回開発された合成ハイドロゲルは、生体の血液凝固反応とは独立した作用機序で血液を固化させることができることから、研究チームによると、ほかの病気や抗凝固薬によって血液が固まりにくい状態にある患者においても、速やかに止血を達成できる局所止血材を開発できる可能性があるとしている。また、血液に限らず、髄液などの各種体液漏出防止材としての応用も広く期待されるとするほか、合成材料であることから未知のウイルスの混入も否定でき、医師・患者双方の精神的負担軽減に貢献できると考えられるとしている。