東京工業大学(東工大)は3月3日、2018年に開発した「アトムハイブリッド法」を応用し、これまで困難とされてきた、60~1000個ほどの原子で構成され、固体とも分子とも見なせる構造を特徴とした、直径1~3nmほどの粒子「準サブナノ物質」の精密な合成に成功したと発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院の塚本孝政助教(科学技術振興機構 さきがけ研究者兼任)、同・山元公寿教授、同・神戸徹也助教らの研究チームによるもの。詳細は、独化学会の刊行する公式学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
肉眼では見ることの不可能なナノスケールの世界の物質でも、サイズによる区分があり、直径で3~500nmほどの「ナノ粒子」は原子の数も多く、固体的な特徴を示す一方で、1nmほどの「サブナノクラスター」は原子が2~30個ほどで構成され、分子的な性質を見せるようになることが知られている。この両者の境界に位置するのが準サブナノ物質であり、サイズは1~3nmほど、60~1000個ほどの原子で構成される。準サブナノ物質は、ナノ粒子的な固体としての一面と、サブナノクラスター的な分子としての一面の両方を備え、その両者の中間的なユニークな特徴から、注目を集めているという。
しかし、こうした準サブナノ物質の合成は容易ではなく、精密な合成はほとんど報告されていないという。その理由は、合成方法が開発されていないことにあり、ナノサイエンスにおける未開拓の分野の1つだという。
そうした中、研究チームは今回、2018年に同チームが開発した「アトムハイブリッド法」を応用し、準サブナノ物質の合成法開発を目指すことにしたという。アトムハイブリッド法は、デンドリマーと呼ばれる樹状高分子のカプセルの内部に、配位結合を利用して金属イオンを多数集積させて作成した、多核錯体を鋳型とすることで、サブナノクラスターの精密合成を行うという手法だという。
準サブナノ物質を合成するためには、従来よりもさらに大きな分子カプセルが必要とされたが、そうした巨大なデンドリマーの合成は技術的に困難であり、これまでアトムハイブリッド法を準サブナノ物質の合成に応用することは検討されてこなかったという。
そこで今回の研究では、カプセル内部の金属イオンだけでなく、デンドリマーそのものを配位結合によって組み上げる手法を新たに採用することで、「超分子カプセル」の合成に成功したという。この樹状の超分子カプセルは、中心構造となる「コアユニット」と、枝葉構造となる「デンドロンユニット」という2種類の樹状分子が配位結合することで構成され、従来の合成方法よりも容易で定量的な合成が可能な、巨大なデンドリマーだという。
この超分子カプセルには、従来のデンドリマーを超える数の金属イオンを集積することができ、実際にこの超分子カプセルを利用して、84個程度の原子からなり、約1.5nmの粒径を持つ準サブナノサイズのロジウム粒子の精密合成を実証することに成功したという。
なお研究チームによると、この超分子カプセルは、コアユニットとデンドロンユニットを混合するだけで自発的に構築されるため、これらのパーツを変更すれば多種多様な大きさのカプセルを容易に設計可能であることから、今後はさらに大きな準サブナノ粒子の合成が期待できるとしているほか、今回検討された「より大きな有機分子を利用して、より大きな無機ナノ材料を合成する」研究戦略については、将来的にナノサイエンスにおける未開拓分野の学理構築に貢献すると考えられるとしている。