欧州のロケット運用会社アリアンスペースは2022年3月4日、ロシアと共同で運用していた「ソユーズ」ロケットの打ち上げを中断すると発表した。

欧州はこれまで、ロシアと協力し、ソユーズを使って欧州の衛星などを打ち上げてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵攻にともなう制裁措置に反発し、ロシア側が打ち上げの中断を一方的に決定。運用ができなくなった。

アリアンスペースは今回の事態を「大きな危機」とし、「現在の状況が引き起こす影響をできる限り正確に評価するとともに、必要な解決案を見いだす」としている。

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    南米仏領ギアナにある欧州のギアナ宇宙センターから打ち上げられる、ロシア製のソユーズ・ロケット(画像は2022年2月打ち上げ時のもの) (C) ESA/CNES/Arianespace

欧州のソユーズ・ロケット

ソユーズ・ロケットは、ロシアの主力ロケットのひとつで、小型・中型衛星のほか、国際宇宙ステーション(ISS)へ向けた有人宇宙船「ソユーズ」や、物資を補給する無人補給船「プログレス」などの打ち上げに使われている。

その原型は、世界初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)であり、そして初の人工衛星「スプートニク」や有人宇宙船「ヴォストーク(ボストーク)」を打ち上げた「R-7」にまでさかのぼる。以来、改良を重ねつつ、その姿かたちはほぼそのまま、半世紀以上にわたり使用。世界でもトップレベルの実績、信頼性を誇る。

現行の「ソユーズ2」ロケットは、エンジンの性能向上や電子機器の改良などにより、より効率的な衛星打ち上げを実現。また、従来はウクライナ製の飛行制御システムを使っていたが、ソユーズ2では国産化を果たすなど、大幅な発展を遂げている

ソユーズは、ロシアの主力ロケットであると同時に、欧州へ輸出され、欧州が運用するロケットとしても活躍。この協力関係は、ソビエト連邦(ソ連)の解体後に交わされた仏露国際協力協定と、欧州宇宙機関(ESA)とロスコスモス(ロシア国営宇宙開発企業)の合意のもとで実施されてきた。

欧州におけるソユーズは、欧州のロケット運用会社「アリアンスペース(Arianespace)」によって、欧州のロケット打ち上げ基地であるギアナ宇宙センター(仏領ギアナ)から打ち上げられている。また、アリアンスペースの子会社である「スターセム(Starsem)」を通じて、バイコヌール宇宙基地(カザフスタン共和国)とヴォストーチュヌィ(ボストチヌイ)宇宙基地(ロシア)からも打ち上げられている。

アリアンスペースは現在、欧州各国が開発した大型ロケット「アリアン5」、小型ロケット「ヴェガ」も運用しており、中型ロケットのソユーズは、その間の打ち上げ能力を埋める存在として活躍。これまでに、欧州の全地球衛星測位システム「ガリレオ」や偵察・地球観測衛星といった官需打ち上げから、欧州内外の衛星事業者から委託を受けた民需・商業打ち上げまで、数多くのミッションをこなしてきた。

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    アリアンスペース、スターセムなどが運用する、バイコヌール宇宙基地からのソユーズの打ち上げ準備の様子 (C) Gravkosmos

ロシアが制裁措置への対抗としてソユーズ打ち上げを中断

2月下旬の時点で、ギアナ宇宙センターでは4月6日の打ち上げを目指し、ガリレオ測位衛星を積んだソユーズの打ち上げ準備が進行中だった。またバイコヌール宇宙基地でも、3月5日の打ち上げを目指し、衛星ブロードバンドインターネットを構築を目指す「ワンウェブ(OneWeb)」の衛星を積んだソユーズの打ち上げ準備が進んでいた。

しかし2月24日、ロシアはウクライナに対する軍事侵攻を開始。これを受け、EUや英国はロシアに対する制裁措置を決議した。

それに反発する形で、ロスコスモスは2月26日、「EUによるロスコスモスへの制裁措置に対抗し、ギアナ宇宙センターからのロケット打ち上げにおける欧州との協力を停止する。打ち上げ要員を含む技術者・作業員を引き上げる」と発表した。これを受け、打ち上げは無期限延期となった。

アリアンスペースによると、ソユーズは打ち上げ可能な状態で保管され、搭載されるガリレオ測位衛星はいずれも安全な状態に保たれているとしている。

アリアンスペースは、「ロシアによるウクライナ侵攻に対して国際社会(欧州連合、米国ならびに英国)が決議した制裁措置を尊重する」としつつも、「ロシアがギアナ宇宙センターから引き揚げ、ソユーズの打ち上げを中断することを一方的に決定したことによって、大きな危機に直面している」との声明を発表している。

一方、バイコヌール宇宙基地からのワンウェブ衛星を積んだソユーズの打ち上げについても、無期限延期となった。

ワンウェブの打ち上げをめぐっては、ロスコスモスが制裁措置への対抗として、「ワンウェブに出資している英国政府が同事業から手を引くこと、ワンウェブを軍事目的で使わないよう保証すること」という要求条件を課していた。しかし、双方の折り合いがつかず、それぞれが打ち上げを中断する声明を発表した。

延期が決定された時点で、ワンウェブ衛星を積んだソユーズは発射台に設置されていたものの、打ち上げ延期を受け、組立棟に戻されている。

これに前後してロスコスモスは、ロケットに描かれたワンウェブに関連する各国の国旗のうち、制裁措置を取った国の国旗にシールを貼って削除。また、ロケットを運搬する車輌に、ウクライナに侵攻したロシア軍の兵器にならって「Z」、「V」といった文字を書くなど、前代未聞の行動をとっている。

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    EUなどからの制裁措置に反発し、ロケットの支援車輌に、ウクライナに侵攻したロシア軍の兵器にならって「Z」、「V」といった文字を書くロスコスモス (C) Roskosmos

アリアンスペースは「現地(バイコヌール宇宙基地)において、物品および資産の保全を保証するよう、関連パートナーと必要な措置をとる」としている。

また、ギアナとバイコヌールからのソユーズの打ち上げ中断を受け、アリアンスペースは「現在の状況が引き起こす影響をできる限り正確に評価するとともに、必要な解決案を見出すため、お客さま、そしてフランスならびに欧州関連機関と密接に連絡を取っている」としている。

アリアンスペースが運用するソユーズは、欧州の安全保障にかかわる衛星の打ち上げから商業打ち上げまで、なくてはならない存在であり、これまでに64機が打ち上げられるなど、打ち上げ数も実績も高かった。そのため、今回の事態は欧州の宇宙開発にとって大きな打撃となった。

一方、欧州製のアリアン5とヴェガの、2022年の打ち上げについては、予定どおり順調に準備を進めているという。また、開発中の次世代ロケット「アリアン6」と「ヴェガC」に関しても、2022年中の初打ち上げを目指す方針に変わりはないとしている。

参考文献

Suspension of Soyuz launches operated by Arianespace & Starsem - Arianespace
Arianespace’s thirteenth flight for OneWeb successfully deployed 34 additional satellites - Arianespace
STARSEM, THE SOYUZ COMPANY
Statement from OneWeb | OneWeb
State Commission cancelled OneWeb satellites launch from Baikonur Cosmodrome - Glavkosmos