パブリッククラウドの利用は増えているが、企業ではオンプレミスと併用するハイブリッドクラウドの利用が現実解と言われている。その場合、オンプレミスには基幹システムを残すケースが多いだろう。

しかし、オラクルはグローバルで財務関連のシステムをオンプレミスからクラウドアプリケーションに移行した。その結果、さまざまなベネフィットが生まれているという。本稿では、日本オラクル ビジネスファイナンス 理事 ファイナンスディレクターの西山哲平氏の講演から、日本オラクルの財務がどのような変革を遂げたのかを紹介する。

  • 日本オラクル ビジネスファイナンス 理事 ファイナンスディレクター 西山哲平氏

目標は「現場が求める分析・レポートを提供できる組織への底上げ」

西山氏が所属する「ビジネスファイナンス」という部門は会社の意思決定を支援することを目的としている。具体的には、財務分析、将来予測、さまざまなレポートや分析を提供することで、社内のすべての部門のリーダーに 数字の観点から助言することを通じて事業を支援している。

これまで、ビジネスファイナンスではデータの収集やレポートに時間を費やしており、分析に時間を割けておらず、「ビジネスに影響を与えることができていなかった」と、西山氏は語る。

一方で、現場部門は「未来の業績を上げるために、今日何できるのか。そのための情報を知りたい」と考えていたという。そこで、ビジネスファイナンスが改革を始めるにあたって定めた目標が「データ収集の組織から現場が求めるレベルの分析やレポートを提供できる組織に底上げすること」だった。

オラクルのビジネスは国をまたぐ活動がある上 サービス、ハードウェア、ソフトウェアの販売を行っているなど、非常に複雑だ。しかも、昨今のビジネス環境は目まぐるしいスピードで変化している。そこで、ビジネスファイナンスではこうした複雑かつ日々変化する環境に機敏かつ柔軟に対応できる組織に変わることができるよう、財務関連のシステムをオンプレミスからクラウド環境に移行した。

クラウド移行にあたっては、「ビジネスプロセスへの人手による作業を排除することによる合理化」「AIと機械学習を通じ、ビジネスパートナーに合わせてリアルタイムのレポートと分析を提供し、意思決定を改善」「顧客と従業員の双方に対するメリット提供」を目標とした。

クラウドなら自分たちの改善要求にも応えてもらえる

オンプレミスの基幹システムは通常、5年から10年でアップグレードするため、変化に追随することが難しい。しかし、クラウドサービスは四半期ごとに更新が行われる。西山氏によると、オラクルのクラウドサービスはユーザーのフィードバックに基づき改善されており、改善要求が採用してもらえることも多いという。自分たちにとって便利な形で改善が行われることから、「社員のエンゲージメントを高める効果もある」と、西山氏は話す。

ビジネスファイナンスのクラウド移行においては、徹底的に現場に寄り添う形で行われた。例えば、プロセスごとに責任者と現場の代表者がついたことで、想定した以上に、標準化が進んだという。その際、「自分たちは特別だから例外を認めるべきという考えから、特別なのは自分たちだけではないという意識に変わっていったことは大きかった」と西山氏。

また、実際にツールを使う人を対象としたユーザー受け入れテストにも力を入れた。工数を使うのは難しかったが、フィードバックに基づき、機能が拡充されることも多く、エンゲージメントにも影響があったという。

なお、西山氏は「機能やプロセスはクラウドに移行したら完成するわけではない。常に最適化する必要がある」と、クラウドを利用する上での心構えを呼び掛けた。

社員も顧客も幸せになれるフレームワークを

ビジネスファイナンスの財務改革は、Streamline(合理化)、Empower(力を発揮する環境整備)、Delight(楽しめる仕組み作り)、Automate(自動化)という4つの要素から構成されるフレームワークの下、行われた。

  • 日本オラクルの財務変革のフレームワーク

西山氏によると、以前の財務のフレームワークの柱は「簡素化」「標準化」「一元化」「自動化」だったという。しかし、これらはアプローチに注目したものであり、財務においては絶え間ない変化に対応することが重要であることがわかるにつれ、今あるものに変わったとのことだ。

「簡素化、標準化、一元化、自動化は、新しいフレームワークでは合理化にまとめられた。人を欠かせないプロセスの一部として組み込み、人がより能力を発揮できる場を作りつつ、その結果、ビジネスファイナンスも社員もお客さまもハッピーになる仕組みを作っていく。社員一人一人が自発的に取り組むことで変化のスピードを増し、外部のスピードを凌駕していきたい」(西山氏)