アルマ望遠鏡は3月2日、うみへび座の方角にある129億年前の銀河「G09.83808」から窒素と酸素の電波を検出することに成功し、宇宙誕生9億年後に窒素や酸素が存在し、そうした重元素がすでに太陽系での存在比率の50-70%ほど存在していたことが示唆される結果を得たことを発表した。

同成果は、国立天文台(NAOJ)の但木謙一特任助教、東京大学の辻田旭慶 大学院生、名古屋大学の田村陽一 准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に近日中に掲載される予定のほか、3月2~5日の日程でオンラインにて開催されている「日本天文学会2022年春季年会」でも発表された。

誕生して間もない、まだ星が1つも輝いていない暗黒時代の宇宙における元素構成は、水素が9割以上を占め、残りのほとんどがヘリウムであったとされている(リチウムやベリリウムなどもごく少量、誕生したと考えられている)。

そのため、現在の地球大気の約99%を占める窒素や酸素のような(水素とヘリウム以外の)重元素は、太陽よりもずっと質量のある恒星の核融合によって作り出されたと考えられており、これらの元素の出現は、ファーストスター(第1世代の星)が誕生したビッグバンから数億年後以降のこととされている。

ただし同じ核融合反応でも、窒素と酸素の起源は少し異なると考えられている。重元素を誕生させる核融合は、起きやすいものと、条件が複雑だったり核融合に必要な原子核の数が少なかったりして起きにくいものもあるとされており、元素ごとにその存在量に差があるためで、例えば酸素は寿命の短い大質量星において、宇宙誕生直後から存在していたヘリウムより作られたと考えられている。

一方、窒素の多くは、大質量星よりも少し質量が軽くて比較的寿命の長い星で、炭素や酸素を含んだ一連の核融合反応の過程で作られたとされ、酸素より遅れて増えてきたことが考えられているという。このことから、今回の観測で129億年前の銀河から窒素が検出されたということは、その時点ですでに星の誕生と死のサイクルを経たことを示す証であり、重元素が作り出されてきたことが示唆されると研究チームでは説明する。

  • 129億年前の銀河の想像図

    窒素と酸素の検出に成功した129億年前の銀河の想像図。手前の銀河(オレンジ色)の重力レンズ効果により、背後にある129億年前の銀河が2つのアーク状の天体として観測されている (C)国立天文台 (出所:NAOJ アルマ望遠鏡Webサイト)

また、宇宙初期の銀河から酸素の電波が検出される機会は、観測技術の向上から近年、増加しているというが、窒素に関しては信号が微弱なため、あまり検出できていなかったという。しかし、今回の観測から、宇宙誕生から9億年後という初期宇宙の銀河から酸素のみならず窒素、さらには一酸化炭素と塵の電波も取得することに成功しており、もし現在の宇宙にある銀河での経験則が129億年前の宇宙でも成り立つとすれば、観測された窒素と酸素の電波強度比は、太陽系での存在比率の50~70%ほどの重元素が129億年前の銀河にすでに存在していることを示唆することとなるともしている。

なお、今回観測対象となった銀河G09.83808は、天の川銀河よりも質量が大きく、古い星が多数を占める巨大楕円銀河の祖先だと考えられているが、宇宙誕生直後の主に水素とヘリウムしか存在しなかった宇宙から9億年の間に銀河がどのようにして重元素を増やしてきたのかを知るためには、より過去の宇宙における銀河での窒素の検出などを進める必要があることから、将来予定されているアルマ望遠鏡の大規模なアップグレードを経て、そうした謎の解明につながることが期待されると研究チームではコメントしている。

  • G09.83808のアルマ望遠鏡の実際の観測画像

    G09.83808のアルマ望遠鏡の実際の観測画像。重力レンズ効果により、2つのアーク状の天体として観測されている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), HSC-SSP, 但木謙一/国立天文台 (出所:NAOJ アルマ望遠鏡Webサイト)