アカマイテクノロジーズは3月1日、2022年の事業戦略に関する説明会を開催した。同社のグローバル、国内における2021年のビジネス状況、今後注力していく分野などについて説明が行われた。
半年間で2社を買収したアカマイ
同社はコンテンツデリバリネットワーク(CDN)事業、クラウドセキュリティ事業などを展開している。グローバルにおける2021年の売上高は前年比7%増の34億6万ドル(約4,000億円)で、2017年の24億9万ドルから右肩上がりで成長を続けている。
特にクラウドセキュリティ事業の成長が著しい。 2020年の売上高は10億6,200万ドルで前年比25%増となった。日本国内のセキュリティ事業においても、2021年の売上高は2018年と比べ、約1.4倍になり顧客数は約800社に上る。同説明会に登壇したアカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の日隈寛和氏は、「アカマイが私たちの生活において、より身近な存在になっている」と述べた。
また同社は2021年9月に、マイクロセグメンテーションソリューションを提供するイスラエルGuardicore(ガーディコア)を買収。サイバー攻撃を防御し、マルウェアやランサムウェアの拡散を防ぐゼロトラストセキュリティソリューションを強化することを目的に買収した。
そして、2022年2月にIaaS (Infrastructure as a Service) プラットフォームプロバイダーである米Linode(リノード)を9億ドル(約1,040億円)で買収。同社は、日本含む世界11カ所に拠点を有し、コンピュート、コンテナ、ストレージ、データベース、ネットワーキングサービスを提供している。米アカマイは2022年の会計年度中に約1億ドル(約115億6,000万円)の収益をもたらすと予想している。
アカマイは2社の買収を通じて、どういった事業戦略を打ち出しているのか。それは主にセキュリティ事業、エッジコンピューティング事業のアップデートだ。説明会で話した内容をもとに説明していこう。
ゼロトラストの「南北」と「東西」
セキュリティ事業では、特にゼロトラストセキュリティに注力していくという。ゼロトラストとは、すべての通信やファイルを信頼せずに性悪説でチェックする考え方のこと。ネットワークの内部と外部を区別することなく、守るべき情報資産やシステムにアクセスするものはすべて信用せずに検証することで、脅威を防ぐ。
アカマイは、2021年9月に買収したガーディコアが提供するマイクロセグメンテーションソリューションを自社のゼロトラスト・セキュリティ・ポートフォリオに追加する。「Akamai Guardicore Segmentation」という名称で、日本では2022年下半期より販売を開始する予定。
「マイクロセグメンテーションというアプローチは、船の構造に区画を作ることと似ている。1カ所で浸水が起きても、そのリスクを閉じ込める。この考え方がITシステムにおいても重要」と、シニアプロダクトマーケティングマネージャーの金子春信氏は説明した。
というのも、近年、アタックサーフェス(攻撃対象領域)が拡大しており、さまざまなところが攻撃の入り口になっている。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業・クラウドの活用の増加に伴い、さまざまなITシステムが分散するからだ。そうなると、ネットワークやファイアフォール機器などですべての攻撃に対応することが困難になってくる。「リスクが入ってきたことを素早く検知し、そのリスクを最小限に抑えるために、セグメント化していくことが重要」(金子氏)
金子氏は続けて、「ゼロトラストセキュリティを実現するには、『南北』と『東西』の通信双方が必要」と話した。「南北(North-South)」の通信は、ネットワークの境界を通過するクライアント対サーバ間の通信のこと。コロナ禍でリモートワークが広がり、この通信のセキュリティが重視されている。一方で、「東西(East-West)」の通信は、ネットワーク内部で折り返すサーバ対サーバ間の通信のことだ。
アカマイの既存ソリューション群は「南北」の通信に対応している。攻撃者が組織の情報インフラストラクチャにアクセスしてくる事や権限を取得することを防止するソリューションがいくつかある。そして、「東西」の通信に対応するのが、ガーディコアの技術からなる「Akamai Guardicore Segmentation」だ。マイクロセグメンテーションにより、侵害の検知と遮断を行い、マルウェアの拡散とラテラルムーブメントを防止し、サイバー攻撃の侵攻を止める。
「Akamai Guardicore Segmentationは、仮想マシンやベアメタル、IaaS、コンテナなど環境を選ばずマルチクラウドに展開できる。エンド・ツー・エンドで一元的に管理ができる」(金子氏)。
『エッジコンピューティング時代』に突入
「エッジ上で動くアプリケーションを活用する時代から、エッジ上でユーザーがアプリケーションを開発できる時代『エッジコンピューティング時代』に突入した」。そう説明したのはシニア プロダクトマネージャーの伊藤崇氏。
アカマイはこの時代に対応するため、第1段階としてFaaS(Function as a Service:サーバレスでアプリ開発ができるサービス)以外のコンピューティング機能の提供を行う。そのために同社は、約1億ドルを投資してプラットフォームプロバイダーである米Linodeを買収した。
しかし、ただクラウドプロバイダーを自社に取り込むだけでなく、第2段階としてエッジコンピューティングを正しく活用するために、新たなプラットフォームの開発を行っていく。両社の技術を組み合わせて、クラウドからエッジまで世界最大級の分散型コンピューティングプラットフォームの実現を目指すとのことだ。
「クラウドは万能じゃない。クラウドとエッジの間をアドレスできる仕組みを構築し、クラウドよりも圧倒的に多くの拠点に分散したエッジコンピューティング基盤を開発していく」(伊藤氏)