東京大学(東大)、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)の3者は2月28日、アルツハイマー病をはじめとするさまざまな神経変性疾患において脳に蓄積して神経細胞を死滅させるタンパク質「タウ」が、脳内の老廃物を除去する「グリアリンパ系」(グリンパティックシステム)の仕組みによって、脳内から脳脊髄液に移動し、その後、頚部のリンパ節を通って脳の外へ除去されていることを動物実験において明らかにしたこと、ならびにこの過程にタンパク質「アクアポリン4」が関与していること、同タンパク質を欠損し、脳からのタウの除去が低下しているマウスでは、神経細胞内のタウ蓄積が増加し、神経細胞死も助長されることを明らかにしたことなどを発表した。

同成果は、東大大学院 医学系研究科の石田和久特任研究員、同・山田薫助教、同・西山里瑳大学院生、同・西田達大学院生、同・橋本唯史特任准教授(研究当時)、同・岩坪威教授、慶應義塾大学医学部の安井正人教授、同・阿部陽一郎講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、米・ロックフェラー大学が刊行する免疫学や神経科学などを扱う学術誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載された。

アルツハイマー病などの神経変性疾患では、異常に蓄積したタウが神経細胞死を引き起こし、認知症の発症を招くことが知られているが、認知症においてタウが蓄積する仕組みは完全には解明されていないため、タウ蓄積を防止し、神経細胞死を抑制するような認知症治療法は、現時点では開発されていない。タウを脳内から効率よく除去し、過剰な蓄積を防ぐことができれば、認知症の治療や発症予防も可能となるものと期待されているが、脳からタウが除去されるメカニズムについてもまだ十分にわかっていないという。

脳内では、グリアリンパ系がそのほかの体内におけるリンパ系に対応する役割を果たし、細胞外での流れを生むことで、脳内で生じた老廃物を効率的に脳外へと除去している。また、脳血管の周囲は、「アストロサイト」という細胞の突起に包まれており、この部分にはアクアポリン4という水を通すタンパク質が発現しており、これがグリアリンパ系におけるスムーズな体液の流れに重要であり、これを欠損すると、脳内の液流が滞ることも分かっている。

そうした中で研究チームは今回、蛍光分子で標識したタウを用いて、グリアリンパ系で駆動される細胞外の体液の流れに乗って、タウが血管周囲の間隙を通って脳脊髄液に移動すること、さらに頚部のリンパ節を経由して脳の外へ除去されていることを確認することに成功したという。また、アクアポリン4を欠損したノックアウトマウスではこの除去過程が抑制され、その結果、脳内のタウ量が増加することも判明したとする。

  • タウの除去

    脳内におけるタウの除去経路と、アクポリン4の役割。タウは脳から脳脊髄液に移動し、その後にリンパ管を経由して脳外へ除去される (出所:東大プレスリリースPDF)

さらに、脳の神経細胞にタウを異常に蓄積するタウ発現マウスにおいてアクアポリン4を欠損すると、神経細胞内のタウ蓄積がさらに増加し、神経細胞死が亢進し、脳が顕著に萎縮することも確認されたとする。

  • タウの除去

    アクポリン4を欠損するタウ発現マウスでは、脳内におけるタウ蓄積量(上段・茶色)が増加し、神経細胞の数(下段・茶色)が減少していた (出所:東大プレスリリースPDF)

今回の成果であるタウタンパク質が、脳から除去される過程に関わるアクアポリン4を欠損したマウスでは、タウの蓄積と神経細胞死が亢進したことから、タウの除去の低下は、認知症発症の原因の1つとして重要であるものと予想されると研究チームでは説明してあり、今回の研究で見出されたタウの除去機構を促進することができれば、タウの蓄積や神経細胞死を防止し、アルツハイマー病などのさまざまな認知症の新規の予防・治療法の開発につながることが期待されるとしている。