米太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」が、厚い雲に覆われた金星の表面を可視光で撮影することに成功した。着陸機ではなく宇宙空間からの可視光撮影は史上初といい、米航空宇宙局(NASA)などが発表した。航行中に金星に接近し、通りすがりに観測する「フライバイ」で実現。今月25日には太陽から853万キロ以内にまで接近した。
観測チームは2020年7月の金星フライバイで、太陽の大気の吹き出し「太陽風」観測用の広視野カメラを使い、金星の雲の観測を試みた。この時、予想外に金星の表面を撮影できたため、続く21年2月のフライバイでも撮影を計画した。金星の雲は表面の可視光の大半を遮るが、近赤外光に近い一部の波長は透過。昼間はこれも日差しに邪魔されてしまうが、夜間は表面の灼熱(しゃくねつ)を捉えることに成功した。
撮影の結果、大陸や高原、平野などの地形が判別できた。低地は高温で明るく、高地は低温で暗く写った。こうした地形は、1990年代に米金星探査機「マゼラン」がレーダーで撮影したものと符合した。成果は米地球科学誌「ジオフィジカル・リサーチ・レターズ」に今月9日に掲載され、NASAなどが10日に発表した。
観測チームの米海軍調査研究所のブライアン・ウッド研究員は「映像に驚いた。金星表面は夜でもカ氏約860度(セ氏約460度)と非常に暑く、鍛冶場で引き出された鉄片のように輝いている」と述べた。
金星の表面は1975年、旧ソ連のベネラ9号が着陸して初撮影。その後は同機の後継機のほか、マゼランのレーダー、2016年に軌道投入され運用中の日本の「あかつき」の赤外線による観測が行われてきた。
NASAは今回の成果について、金星の地形の確認だけでなく、火山活動が厚い大気を生んだ具体的な仕組みの理解につながる可能性があるとしている。地質や鉱物の理解や、金星と同時期にできた地球や火星を含む惑星の歴史の解明にも、役立つという。「パーカー・ソーラー・プローブは太陽観測が主目的だが、計画開始時には予想しなかった金星の刺激的なボーナスデータを提供してくれた」としている。
太陽の上空には、100万度超の高温で水素原子が分解した状態(プラズマ)の大気「コロナ」が存在する。ここで爆発現象「フレア」が起き、エネルギーの高い粒子が宇宙空間に飛び出している。大規模だと地球では磁気嵐が発生し、停電や人工衛星の故障、通信障害などで人類の生活にも支障が生じる。パーカー・ソーラー・プローブはコロナに突入して観測し、コロナやフレアなど、太陽で起こる現象の仕組みの解明を目指す。2018年に打ち上げられ、昨年4月には史上初めてコロナに突入。25年までに計24回、太陽に接近する。
日本は同機の太陽接近時に、太陽観測衛星「ひので(ソーラーB)」により支援観測を行っている。また政府の宇宙基本計画工程表によると、2026年度の打ち上げを目指し、ひのでの後継機「ソーラーC」を開発する。太陽の紫外線を捉え、プラズマ形成やフレア発生の仕組みの解明を目指す。
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