産業技術総合研究所(産総研)と愛知製鋼は、愛知製鋼が開発した磁気インピーダンス素子(MI素子)向け計測用ASICを設計し、低ノイズ、広帯域、電力効率に優れる磁気センサを開発したことを発表した。
同成果は、産総研 デバイス技術研究部門 先端集積回路研究グループの秋田一平主任研究員を中心に、愛知製鋼の研究者らも参加した共同研究チームによるもの。詳細は、米国時間2月20~24日にオンラインで開催された集積回路に関する国際会議「ISSCC 2022(国際固体素子回路会議)」で発表された。
磁気センサは、さらなる小型軽量化に加え、低ノイズ、広帯域、高ダイナミックレンジ、低消費電力などが求められており、その実現に向け、さまざまな技術が開発されているが、いずれも一長一短がある状況だという。
そうした中、小型かつ低ノイズな磁気センサとして利用可能で、駆動用の電流を抑制できるため、低消費電力な磁気計測システムへの応用が期待されるMI素子が近年、注目されるようになってきたという。しかし、MI素子を用いた磁気センサの実装において、期待される低消費電力と低ノイズ特性を実現するためには、適切な駆動および信号処理手法が要求されるという課題があったという。
そこで研究チームは今回、MI素子用に回路構成と動作を新規に構築して最適化し、低ノイズかつ低消費電力で実現可能な信号処理回路の開発を試みることで、磁気センサ全体の低消費電力化を目指すことにしたという。
また、出力信号を低ノイズ化し、同時に広帯域化するためには、誘導電圧のサンプリング処理をナノ秒オーダーで制御する必要があったが、従来はデバイス間の製造ばらつきによりこの制御が困難であるという問題もあったことから、その解決にも挑戦。具体的には、出力信号をモニタリングし、当該サンプリングタイミングを補正するためのデジタル自動補正技術として、遅延同期回路を用いることで、高い時間分解能でサンプリングタイミングを調整できるようにしておき、実効的なMI素子感度が最大化するポイントを自動的に探索するというものを開発することで、デバイス間のばらつきによらず常に最適なタイミングでサンプリングが行われ、ノイズ特性と信号帯域を最良の状態に制御することを可能にしたとする。
実際に、これらの技術を含むMI素子向け計測用ASICが試作され、磁気センサとしての評価を実施(入力レンジは、±125μTで、無入力時の消費電力は2.6mW、信号帯域は33kHz、ノイズ特性は10pT/√Hz)したほか、開発されたデジタル自動補正技術の有効性確認のために、同技術適用前と後における信号帯域とノイズ特性を、5つの磁気センササンプルを用いてデータを収集。その結果、自動補正後の信号帯域・ノイズ特性が、自動補正前のそれらよりも改善していることが確認できたとするほか、今回の磁気センサは93dBというダイナミックレンジが達成され、センサの性能指標である正規化エネルギーも1.6pJとなり、従来の低ノイズ磁気センサと比べて、1000倍以上の電力効率が達成されたとする。
なお、研究チームでは今後、磁気センサとしてのさらなる高感度化、電力効率の向上を図るとともに、製品として組み込むための開発を進めるとしているほか、生体磁気計測や産業用計測などに向けた応用技術の研究開発を推進するとともに、新たな用途開拓に向けた応用提案を行っていくとしている。