atama plus(アタマプラス)は2月22日、「教育のデジタル化によって変わる先生の働き方・役割」と題した報道関係者向けのセミナーを開催した。同日には、教育現場のデジタル化の課題や、塾と学校における教育のデジタル活用事例が紹介された。
atama plusは、塾・予備校にAI(人口知能)を活用したラーニングシステム「atama+」を提供しているEdTech企業だ。同サービスでは、小中高生向けの教材の提供や講義動画を配信するほか、AIを活用することにより学習内容の理解度・学習履歴・ミスの傾向などに応じて、生徒ごとにカスタマイズした専用カリキュラムを作成することができる。
セミナーでは、atama+ EdTech研究所 主席研究員の森本典生氏が、国内のさまざまな調査結果を示しつつ、教育業界のデジタル化の現状を振り返った。国内の教育のデジタル化は一定程度進んでいるものの、森本氏は「教育機関の間で活用度合いに差が出ている」と分析する。
デジタル庁、総務省、文部科学省が共同で行ったアンケートである「GIGAスクール構想に関する教育関係者へのアンケートの結果及び今後の方向性について」では、教職員が抱える課題の上位に「活用方法が分からない」が挙がった。
2020年度から始まった「新学習指導要領」には、アクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)や「プログラミング教育」といった、今後重視する教育分野などが示されている。一方、さまざまな調査結果から、教員不足や教師の1日あたりの働く時間の長さが教育業界の課題になってきている。
森本氏は、「教育のデジタル化は、教師の業務負担軽減のための重要な手段の1つではあるが、本来は生徒により良い学びを届けるためのものだ。現状、デジタル環境は整いつつあるものの、活用はまだ始まったばかりだ。業界全体で活用事例を共有し、ITツールの使い方を磨き続けることが、生徒たちのよりよい学びにつながると考える」と語った。
塾での活用事例は、個別指導塾を運営するオブリガードス代表取締役の林部一成氏が紹介した。同社では従来、業務の7割が教材の準備、生徒の教科指導、宿題の採点といった「教科指導」で、残りの3割が講座設計、講師のシフト調整、講師の採用活動などの「管理」だったという。
林部氏は、「地域特性もあり、講師の確保が困難なうえ、講師と生徒が1対3の体制で個別指導をすると、生徒が増えた分、先生を増やすほどサービスの質が下がる傾向にあった。個別最適な学びが提供できない、大学受験まで指導できない、生徒の夢に寄り添う時間がないという課題があった」と振り返った。
同社では、「atama+」を導入したことで指導・管理業務を5分の1に減少し、生徒との面談が業務のに使う時間を増やせたという。だが、講師の仕事の大部分を占めていた教科指導がデジタル化することに、講師たちからは抵抗があったそうだ。
「講師は生徒に教えるのが好きだから、最初はデジタルに置き換わることに抵抗や葛藤を感じたスタッフは多かったと思う。私も含めて、実際にデジタル教材を使用してみて、個別最適な学びを実現できると実感しITツールの導入を決めた。現在は、生徒の将来の夢のヒアリングや目標・学習プラン設定のために、1対1のコミュニケーションに時間を割けるようになった」(林部氏)
学校での活用事例は、武蔵野大学中学校・高等学校 中高学園長の日野田直彦氏が紹介した。同校は、経済産業省の「未来の教室」実証事業(2019年度)のモデル校として、Z会グループを通じてatama+を導入したほか、複数のデジタルツールやコンテンツを活用している。日野田氏はITツールの導入・活用のポイントを「提供しっぱなしにしないこと」と話した。
ツールやコンテンツを生徒が一方的に受け取るだけでは、「先生がなんとかしてくれる」「学校がなんでも提供してくれる」と受け身になり、生徒が自ら問いを立てて、考え、学ぶようにならず、生徒に最適なツール導入につながらないからだ。
「ツールやコンテンツを導入しさえすれば良いわけではない。アジャイル開発の発想で、生徒と教師が相互にフィードバックをしながら、必要なITツールやデジタルコンテンツを共同開発していくことが重要と考える。本校では生徒と教師からアンケートを取って、導入済みのコンテンツの改善を進め、生徒から新たに導入してほしいツールなどを聞いている」(日野田氏)
同校では現在、家庭との情報共有にスタディサプリ Classi(クラッシー)、生徒間でのアイデアの共有や共同作業にはG Suiteなどを利用している。また、弱点補強や暗記の最適化ではRareJob(レアジョブ)、atama+、Monoxer(モノグサ)などを活用し、生徒の苦手な領域のデータを収集しながら、授業を組み立てているという。また、日本のデジタルコンテンツ・ツールにこだわらず、海外大学の無料授業やサービスなども導入してきた。
これまでの取り組みを基に、2022年度から運営を再開する千代田国際中学校でもITツールを導入し、教師がレクチャーする従来型の授業であるSCL(Subject Based Learning)と問題解決型学習とされるPBL(Project Based Learning)を組み合わせたカリキュラムを導入するという。
「教員に求められる仕事は、今までは授業やテストをして採点して、成績をつけて、空いた時間で生徒の話を聞くというものだった。今後はITツールを活用し、ファシリテーターや外部とコラボレーションするためのコーディネーターであるとともに、生徒にとっての進路とメンタルのカウンセラーや人生の方向性の1つを示すナビゲーターといった役割が求められる」と日野田氏は語った。