東京工業大学(東工大)、横浜国立大学(横浜国大)、量子科学技術研究開発機構(量研機構)の3者は2月24日、核融合炉の心臓部であるブランケットの冷却材の新概念として検討されている液体金属の研究において、約900℃の高温で機能する高純度の「液体リチウム鉛合金」の大量合成に成功したこと、ならびに900℃の液体リチウム鉛合金の強い腐食性に耐えられる構造材の候補物質として、鉄クロムアルミニウム(FeCrAl)酸化物分散強化合金を発見したことを発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授、同大学 工学院機械系 原子核工学コースの畑山奨大学院生(研究当時)、横浜国大 理工学部の大野直子准教授、量研機構 量子エネルギー部門 六ヶ所研究所の野澤貴史グループリーダーらの共同研究チームによるもの。詳細は、酸化を含む腐食の発生と制御に関連する幅広い分野を扱う学術誌「Corrosion Science」に掲載された。
核融合炉のブランケットでは、いかに高効率でエネルギー変換を行えるかという点が求められている。日本の原型炉で検討されている発電ブランケットは、約300℃の高温高圧水で熱を取り出すという方式だが、それより高効率な方式として現在期待されているのが「液体ブランケット方式」だという。冷却材を液体金属に置き換えてブランケット内に流し、約900℃という高温において使用するというもので、これだけの高温であれば、核融合自体の発電に加え、水から水素の製造も行えるため、水素エネルギー社会に供給できると考えられている。
その液体ブランケット方式を実現する液体金属として研究が進むのが、液体リチウム鉛合金であるが、約900℃という高温の液体金属は高い腐食性を有しており、それに耐えられる周辺の構造材などがないことが課題とされてきた。また液体金属は高純度にすると腐食性が弱まるという特徴があるが、高純度な液体リチウム鉛合金の合成方法はこれまでのところ開発されていなかったという。そこで研究チームは今回、900℃で機能する液体リチウム鉛合金を高純度で合成する手法と、その腐食性に耐える構造材の探求に取り組むことにしたという。
液体リチウム鉛合金を合成する際、純度の制御で難しいのが、水の半分程度の密度しかないリチウムと、水の約10倍の密度を有する鉛を均一に混ぜるという点で、今回の研究では、ジャガイモをつぶす器具に着想を得て、新たな高純度リチウム鉛合金合成装置を開発することで解決を目指したという。
具体的には、原料を350℃で一気に攪拌し、純度管理において理想的な条件である減圧環境下で混合させることによって、原料に付着した水分などの不純物を昇温脱離させ、高純度のリチウム鉛合金を合成するという仕組みだという。これまでは300g程度の合成量が限界だったが、同装置により原子組成において鉛84%・リチウム16%というリチウム鉛合金を10kg合成することに成功したという。
また、この液体リチウム鉛合金は、鉄やクロム、ニッケル、マンガンなどの金属不純物の混入を従来の研究に比べて抑制できることも判明したほか、中性子を吸収して放射性物質を生産してしまうビスマスの濃度や、構造材料の腐食を促進してしまう溶存窒素の濃度も従来の10分の1以下に抑えることができることが確認されたとする。
さらに600℃、750℃、900℃の3条件において、合成された高純度リチウム鉛合金の腐食性に耐えられる構造材の探索を行ったところ、600℃と750℃で大差はなかったが、900℃では対象材料である、一般的な耐食性構造材「316Lオーステナイト鋼」、耐高温材料として期待されているSiCでは程度の差はあるものの腐食が確認されたものの、NF12(Fe-12Cr-6Alのタイプ)とカンタル製「APMT(Fe-22Cr-5Alのタイプ)」という、2種類のFeCrAl酸化物分散強化合金では、ほとんど腐食していないことが確認されたとする。
なお、腐食していない理由については、約5~10μmほどの酸化被膜「ガンマ-リチウムアルミネート」(γ-LiAlO2)が自己形成されることにあることが判明。γ-LiAlO2は破壊されたり剥がれたりしても再生するため、NF12とAPMTは優れた耐食性を維持し続けることが期待できると研究チームでは説明している。
今回の成果を踏まえ研究チームでは、日本国内のみならず、液体増殖ブランケットの開発を進めている欧州や中国、インドを中心として世界中の液体金属研究が活発化され、実現へ向けた課題の解決が加速されることが期待されるとしている。