KDDIは2月21日、オンラインで記者会見を開催し、法人向けに5G SAサービスを提供開始すると明らかにした。これに伴い、AbemaTVが運営する「ABEMA」と共同で日本初の5G SA(スタンドアローン)を活用した映像の生中継を実施する。なお、ABEMAでは同日19時から配信予定のHIPHOPチャンネル「ABEMAMIX」の一部で実施し、5G SA対応のスマートフォンとネットワークスライシングを活用して安定した映像中継を提供する。

5G SAはコア設備(5GC)を含めて5G技術のみで通信を可能とするシステム。高速・大容量通信に加え、ネットワークスライシングなどの新たな機能の実装が可能とし、従来では有線回線が利用されていた産業に5G SAを導入することで、無線化による業務効率化、低コスト化が期待されるという。

KDDIが提供する5G SAの大きな特徴はMECとネットワークスライシングだ。KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長の野口一宙氏は「5Gは単に高速大容量ではなく、MEC(Multi-access Edge Computing)とネットワークスライシングが肝となる」と力を込める。

  • KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長の野口一宙氏

    KDDI ソリューション事業本部 サービス企画開発本部 5G・IoTサービス企画部長の野口一宙氏

MECは、利用端末の近くにサーバを分散して設け(エッジサーバ)、データをエッジサーバで処理することで遠くにあるサーバでの処理量を低減するものだ。一方、ネットワークスライシングはネットワークの各種リソースを分割し、さまざまなユースケースに応じて独立したネットワークを構築することを可能としている。

  • ネットワークスライシングの概要

    ネットワークスライシングの概要

野口氏は「2020年3月に5Gを指導してから2年が経過し、法人分野での引き合いもあり、約40%は製造業となっている。製造業では5Gの特徴である大容量の画像データ処理、低遅延を活かしたAGV(Automated Guide Vehicle:自動搬送車)の自動制御、そして大容量画像データを用いた画像解析のAIソリューション、これらを総合的に活用するスマートファクトリーなどのユースケースがある。昨今では大容量の動画を扱う放送・メディア業界などにもニーズが広がっている。5GはIoTをより加速させ、社会全体がつながる世界で新たなユースケースを生み出すインフラだ」と説明する。

このような背景から、同社では5Gを“通信が溶け込む”時代と定義し、法人向け5G SAの商用提供を開始する。従来はコア設備に4G設備(EPC)を活用した5G NSAだったが、5G SAはコア設備に5GCを利用する。同社は昨年9月から商用環境で5G SA通信試験を開始しており、これは5Gコアネットワーク機能を完全に仮想化されたソフトウェアで実現している点が特徴となる。

  • SAの概要

    SAの概要

KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長の渡里雅史氏は「当社はネットワークスライシングの機能をみがきあげることで、1つのネットワークを平等に提供するモデルから、サービスにもとづくSLA(Service Level Agreement)に合わせて特徴づけたネットワークを提供するモデルへの変革を図る」と話す。

  • KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長の渡里雅史氏

    KDDI 技術統括本部 モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部長の渡里雅史氏

そのために同社では、SLAに準じてネットワークスライスの性能を提供・維持する「SLA assurance」、ネットワークスライスの安全性・可用性を確保する「Security」、ネットワークスライス間の相互不干渉を確立する「Isolation」の3つの技術開発に注力するという。

  • ネットワークスライシング注力していく領域

    ネットワークスライシング注力していく領域

渡里氏は「個々のユーザーの通信状況を把握し、適切な通信リソースの割り当てを行うための仕組みとしてRAN(無線アクセスネットワーク)インテリジェントコントローラ(RIC)を開発しており、SLA保証に向けて技術開発を加速させている」と強調する。

野口氏は「今後、映像×5G SAは製造、メディアのみならず、自動運転、安全管理、遠隔診療、公共交通機関における業務用通信などに広がりをみせていくものとなる。5Gは段階的に進化しており、現在は組み合わせによる利用シーンが増加している拡大期となり、今後迎える本格期ではMECとそれぞれに最適化されたネットワークスライシング、そして通信だけでなく、ビジネスを支えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の基盤として顧客の事業・サービスに適した形で利用してもらいたいと考えている」と述べていた。

  • DXの基盤として5Gを売り込む

    DXの基盤として5Gを売り込む