「電子帳簿保存法」とは?
LegalForceは2月21日、電子帳簿保存法(以下、電帳法)の改正によって企業の帳簿書類管理業務が受ける影響について説明会を開いたので、その模様をお届けしたい。
同社の法務ユニットマネージャーを務める吹野加奈氏は「電帳法を理解するためには、まず前提として法人税法を知っておく必要がある」と話を切り出した。法人税法は、法人税について納税義務者が順守するべき事項やその手続きを定めた法であり、その中で、注文書や契約書、領収書、見積書などの帳簿書類を7年間保存することを事業者に求めている。
その上で、「電帳法は法人税法が定める帳簿書類の7年間の保存義務について特例を定めた法である」と同氏は説明した。法人税法は紙での保存を前提としており、電子取引データの保存については規定していない。そのため、電帳法は税法上、紙で保存義務がある帳簿書類の電子化を認め、税法上は保存義務がない電子取引データの保存義務を課すために制定されたのだという。
また、同法では帳簿書類の電子化を認めるための制度として「電子帳簿等保存」と「スキャナ保存」を、また、電子取引データについての保存義務を課すための制度として「電子取引データ保存」の計3種の制度をそれぞれ定めている。
これらの制度を利用するには、電帳法において定められた要件を満たす必要がある。それぞれの制度は一見すると似ているが、各制度が求める要件が少しずつ異なるので注意しなければならない。
吹野氏は「電帳法のどの制度に関する話題なのかを明確にしないまま話を進めてしまうと、嚙み合わない場面がよくある。自分はスキャナ保存の話をしているつもりでも、相手は電子取引データ保存の話をしているのであれば議論は進まない。私が社外の方と話す際には、まず各制度の何についての話題かを確認するように気を付けている」と自身の体験を語っていた。
電帳法の3制度が定める要件
「電子帳簿等保存」は、帳簿書類のうち自己が最初の記録段階から一貫して電子計算機を使用して作成しているものについて、要件を満たせばデータのままで保存できる制度だ。仕訳帳や総勘定元帳などの「帳簿」、BS(貸借対照表)やPL(損益計算書)などの決算関係書類、自社が発行した 見積書や納品書などの取引関係書類がこれに該当する。
「スキャナ保存」は、取引関係書類について、紙の書類を保存する代わりに、要件を満たした上でスマートフォンやスキャナで読み取ったデータを保存できる制度だ。取引先から受領した領収書や請求書などが該当する。
また、「電子取引データ保存」は、取引情報のやりとりをデータで行った場合に、一定の要件のもとで、やり取りしたデータを保存する必要があることを定めた制度だ。メールデータや電子契約データなど、電子的にやり取りした取引データが対象だ。
これらの3制度に対して、それぞれ「真実性の確保」「見読可能性の確保」「関係書類の備え付け」「検索機能の確保」の4つの要件が大きく求められているという。求められる要件の内容は各制度によって異なるため、注意が必要となる。例えば、スキャナ保存では「真実性の確保」として、書類のバージョン管理に加えて、書類を読み取った際の解像度や階調などの保存が求められている。
改正電子帳簿保存法のポイント
2022年1月に電子帳簿保存法が改正された。今回の法改正は経済社会のデジタル化を踏まえて、経理の電子化による生産性の向上やテレワークの推進などに資するため、国税関係帳簿書類を電子的に保存する際の手続きを緩和する狙いがあったのだという。一方で、不正に対するペナルティが強化されている。
「電子帳簿等保存」に関する改正内容を詳しく見ると、法改正前は電子帳簿を保存する際に事前に税務署長の承認を得る必要があったのだが、改正によりこれが不要となっている。また、改正前は国税関係帳簿は全て厳格な要件を満たさなければいけなかったのだが、改正前の要件を満たしている電子帳簿を「優良」として認定することで、過少申告加算税が5%軽減される措置が導入された。
「スキャナ保存」に関する改正内容で注意すべき点は、ペナルティが加重されていることだ。税務調査時に改ざんなどの不正が発覚した場合には追徴課税額の35%が加算されるのだが、法改正によってさらに10%が追加徴収されるようになったとのことだ。
「電子取引データ」についても、スキャナ保存の改正内容と同様にペナルティが加重されているので注意が必要だ。また、これまでは電子取引データを印刷して保存できていたのだが、法改正後には紙に印刷して書面での保存が不可となっている点にも注意したい。なお、電子取引データの書面保存については2年間の猶予期間を設けるとの方針が政府から示されており、事業者はこの期間に対応を進める必要がある。
電帳法の改正による契約管理業務への影響は?
改正電帳法のうち、企業の契約管理に関連する電帳法の制度は「スキャナ保存」と「電子取引データ保存」だ。
「法改正によってスキャナ保存のハードルは下がった。しかし、電帳法はあくまで税法に関わる法令であり、契約書は税法上の役割のほかに訴訟の時に最良の証拠となる役割も持っている。訴訟の際の契約書の役割が変わらない限り、原本を捨てるのは勇気がいる行為だろう。スキャナ保存で電子化が進んでも、原本を捨てるのは難しい選択だと思う」(吹野氏)
電子取引データも同様だ。確かに法改正によって電子取引データの保存のハードルは下がったが、電子契約で締結された契約書の有効性に関する裁判例は蓄積されていない。「重要な契約については紙での契約締結が避けられないのではないか」と同氏は述べた。