北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は2月18日、リチウムイオン電池(LIB)の安定な高容量充放電を可能にする、新規負極活物質の開発に成功したと発表した。
同成果は、JAIST 先端科学技術研究科 物質化学領域のラヴィ・ナンダン研究員、同・高森紀行大学院生、同・東嶺孝一技術専門員、同・バダム・ラージャシェーカル講師、同・松見紀佳教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料化学を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。
リチウムイオン電池の容量を増やすことを目指し、近年、従来の負極材料であるグラファイトよりも大きな理論容量を示すシリコン系材料に注目が集まっている。しかし、シリコン系負極の実用化には、シリコン粒子は充放電時の体積膨張・収縮が大きいため、充放電の際の粒子の破断や界面被膜の破壊、集電体からの剥離などが起きてしまうといった克服すべき課題があり、一般に高容量を安定に発現することが困難とされており、その改善手法として、特殊なバインダー材料の開発といったアプローチが、国内外において検討されているという。
そうした中で研究チームは今回、シリコン粒子に代わり、安定な充放電サイクルを汎用のバインダー材料使用時においても示す「シリコンカーバイド」系活物質として、閃亜鉛鉱型構造を有する「β-シリコンカーバイド」と「窒素ドープカーボン」との複合材料を合成し、新規リチウムイオン電池用負極活物質としての検証を行ったという。
得られた材料についての構造確認が行われた結果、炭素系マトリックスにβ-シリコンカーバイドの結晶が埋め込まれている様子や、β-シリコンカーバイドの(111)面に相当する0.25nmの面間距離が観測され、マトリックス内に指紋状に分布する様子などが観測された。
また、合成された活物質を用いて負極が構築され、アノード型ハーフセル(Li/電解液/β-SiC)が作製され、各種電気化学的評価が実施されたところ、サイクリックボルタモグラムにおいては、シャープなリチウムインターカレーションのピークに加えて、シリコン負極の場合と形状は異なるものの0.58Vのブロードなリチウム脱インターカレーションのピークを共に示したとするほか、充放電挙動においては、1050℃の焼成処理により合成された活物質「MAD1050」を用いた系では、1195mAhg-1の放電容量が300サイクルまで示され、この負極活物質を用いることにより、汎用のバインダー材料を用いた系であっても、高放電容量と長期サイクル耐久性を同時に発現させることが可能であることが示されたという。
なお研究チームは、活物質の面積あたりの担持量をさらに向上させつつ、電池セル系のスケールアップを図り、産業応用への橋渡し的条件においての検討を継続するとしている(国内特許出願済み)。また、今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指すとしており、高容量充放電技術の普及を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待されるとしている。