東北大学は2月18日、疎水性の「環状シロキサン」に、ムール貝などが岩にはりつくために分泌する「カテコール」とカルボキシ基を同時に導入することで、カテコールの弱点を補って優れた抗酸化性が期待される超分子を開発し、高接着かつ再利用可能性を有する「スマート接着剤」の開発に成功したことを発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の朱慧娥助教、同・三ツ石方也教授、山形大学大学院 理工学研究科の宮瑾准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ポリマーの用途に関する工学・化学・物理学・生物学など全般を扱う学術誌「ACS Applied Polymer Materials」に掲載された。
刺激に応じて自在に接着および剥離ができ、再利用可能なスマート接着剤として、カテコール由来の接着剤が精力的に研究されている。カテコールから「キノン」への容易な酸化は、さまざまな異種材料間の接着に有利である一方、三次元共有結合ネットワーク構造の形成を誘発することで、接着性カテコール基が減少してしまうため、接着強度の低下や、再利用の困難など、克服すべき課題があるという。
そこで研究チームは今回、4つのカテコール基(Cat)と4つのカルボキシ基(CG)を含む親水性基に囲まれた「テトラメチルシクロテトラシロキサン」(TMCS)コアの構造を有する超分子接着剤「TMCS-Cat-CG」を分子設計・合成し、優れた抗酸化性と無機親水性表面への強力で可逆的な接着性を示すことを実証することにしたという。
TMCS-Cat-CGの中心部分は疎水性を示し、抗酸化性環境を提供すると考えられることから、その周囲に多くのカテコール基を配置することで、基板表面と十分に接触できるように分子設計が行われた。
カルボキシ基は酸性を示して、局所的なpH緩衝により、pH<8.5の環境下でのカテコール酸化を最小限に抑えることが期待できる。そこで合成直後のTMCS-Cat-CG超分子に対し、分子構造の安定性の評価が実施されたところ、大気環境下で4か月経た後もカテコールからキノンへの酸化反応が起きていないことが確認されたとするほか、TMCS-Cat-CGは室温では固体だが、効果的な硬化剤として少量の水を使用した場合、水素結合ネットワークを形成する結果、高い粘度(約2.6×108mPa・s)を示すことも明らかにされた。
また、2枚の基板を重ね合わせ接着したサンプルの引張実験では、TMCS-Cat-CG接着剤がガラス、アルミニウム(Al)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)など、さまざまな基材に強く接着。低分子にもかかわらず、接着応力287~605kPaと付箋紙の10倍以上の高い接着強度が示されたほか、繰り返し実験では、接着と剥離を数回繰り返した後も接着強度の低下は見られなかったという。
これらの結果から、カテコール基や水による水素結合に基づく超分子TMCS-Cat-CG接着剤が抗酸化性、高粘度・高接着、繰り返し特性を有するスマート接着剤として機能することが示されたと研究チームでは説明しており、今後は、水中での接着性に着目した研究が考えられることから、海洋接着剤や生体接着剤などの広範な用途への応用展開へとつながることが期待されるとしている。