半導体回路・システムに関する最高レベルの国際学会である「International Solid-State Circuits Conference(ISSCC) 2022」は2022年2月20~24日の日程で米国サンフランシスコでリアルとオンラインのハイブリッド形式で開催されることになっていたが、新型コロナ蔓延下での感染防止と海外からの参加者の入国制限を考慮して、オンラインのみの開催に変更となった。なお、オンデマンドによるビデオ視聴は2022年3月末まで可能である。

日本からの発表は減少傾向で今年はわずか7件

ISSCC 2022の投稿論文数は前年比12%増の651本で、採択論文数は200本、採択率は30.7%だった。採択論文の地域別割合は、アジアが約50%でトップ、北米が36%、欧州が14%と続く。国別では、アメリカが69件でトップ、次いで韓国41件、中国30件、台湾15件で、日本は7件だった。韓国や中国が目覚ましく件数を増やしているなか、日本勢は長期にわたり件数減少に歯止めがかからず、台湾の半分以下の状況となっている。アジアでは日本が一人負け状態となっており、国策での半導体製造力強化にばかり目が行きがちであるが、むしろ国を挙げた半導体設計力強化策の検討も必要であろう。

日本からの7件の筆頭著者所属別内訳は、東京工業大学が3件、産業技術総合研究所が1件、静岡大学が1件、キヤノンが1件、ルネサス エレクトロニクスが1件となっている。このほか、富士通が、世界最高性能のスーパーコンピュータ「富岳」に向けて開発した高性能7nm CPUの概要を招待講演で紹介する予定となっている。

今回の会議全体のテーマは「持続可能な社会に向けたインテリジェントな半導体」である。持続可能な社会実現のために、低消費電力化によって環境負荷を減らすことが求められており、そのために半導体に期待が高まっている。

  • ISSCC 2022

    ISSCCの国別採択論文数の推移 (出所:ISSCC 2022 東京プレスコンファレンス)

基調講演は4件

基調講演は例年同様4件で(図2)、1件目は半導体自動設計ツール大手ベンダのSynopsysの会長兼共同CEOのAart de Geus氏が「Catalysts of the Impossible: Silicon, Software, and Smarts for the Era of SysMoore(不可能という触媒:SysMoore時代に向けたシリコン、ソフトウエア、知能)」と題して講演する。

SysMooreとは、ムーアの法則による微細化の複雑さとシステム集積化の複雑さに特徴付けられた最先端の集積回路設計を指す造語である。

2件目は、STMicroelectronicsの通信および戦略開発担当プレジデントのMarco Cassis氏が「Intelligent Sensing: Enabling the Next “Automation Age”(インテリジェントセンシング:次世代の『オートメーション時代』を可能に)」と題して今後のセンシング技術を展望する。

3件目は、Samsung ElectronicsのシステムLSI事業部門のプレジデント兼GMのInyup Kang氏が「The Art of Scaling: Distributed and Connected to Sustain the Golden Age of Computation(スケーリングの芸術:コンピューティングの黄金期を維持するための分散・接続技術)」と題した講演を、そして4件目の講演は、クラウドベースのプロセッサを根本から見直してクラウドネイティブなプロセッサ設計を目指す2018年創業の新興企業Ampere Computing社会長兼CEOのRenee James氏(元Intel)が「The Future of the High Performance Semiconductor Industry and Design(高性能半導体の産業と設計の未来)」と題する講演を行う。

  • ISSCC 2022

    ISSCC 2022の基調講演概要 (出所:ISSCC)

招待講演は、富士通の富岳プロセッサなど8件

招待講演は8件あり、先述した富士通の富岳プロセッサの紹介はじめ、AI(機械学習)を意識したデータフローアーキテクチャや仮想通貨マイニングチップ、ワームホールAI学習プロセッサ、超伝導量子プロセッサやシステム、AR(拡張現実)システム、3次元接続の64MBキャッシュメモリの3次元積層技術などのテーマで講演が行われる。

このほか、本会議に先立ち、20日(米国西海岸時間)には12テーマにわたるチュートリアル(講義)が行われた。

発表件数トップはSamsungの17件

一般講演のセッションは大きく4つに分かれており、最大なのは(1)デジタルシステムで、次が(2)通信システム、(3)アナログシステム、そして(4)イノベーティブトピックス(MEMSやイメージセンサなどLSI以外のトピックス)となっている。200件の一般講演の国別内訳はすでに述べたが、発表機関別では、Samsungが17件でもっとも多く、次いでIntelの10件、IBMの5件、東工大、SK Hynix、TSMC、imec、Analog Devices(ADI)などが3件と続いている。Samsumgが微細デバイスの製造だけではなく設計分野で抜群の力をつけ、世界をリードしている点が注目される。