Xilinx(というか、タイミングはすでに買収が完了したのでAMDであるが、一応この記事では区別のためにXilinxで通させていただく)は2月17日、ビジョンおよび産業/サイエンス/医療分野(ISM:Industrial/Science/Medical)向けの取り組みについてオンラインの形で説明を行ったので、その内容をご紹介したい。
ちなみに説明を担当されたのは、以前Kriaの発表を行ったChetan Khona氏(Director, Industrial, Vision, Healthcare & Sciences)である(氏の肩書が今後どう変わるかは、現時点では不明である)。
まず最初にそのAMDとの合併後の話である。Khona氏によれば、新たにAECG(Adaptive and Embedded Computing Group)が結成され、そのGroupのTopにはXilinx CEOだったVictor Peng氏が就任している。旧XilinxはすべてAECGに「まずは」配されれる形になると思われる。「まずは」と書くのは、例えばIntelも当初は旧Alteraの部隊をPSG(Programmable Solutions Group)に配したものの、そこからIntel PAC(FPGA搭載のアクセラレータカード)に関してはDCG(Data Center Group)に半ば切り出すような格好になっているからで、AMDも今後はニーズに応じてこうした変更があるのかもしれない。
ちなみに以前Steve Longoria氏がおられたEmbedded Group(ちなみにLongoria氏は2020年にAMDを退職されている)はこのAECGに統合されており、Peng氏は旧Xilinxと旧Embedded Group両方を統括する形になる。さらに余談だが、Peng氏の肩書はEVPとかSVPではなくPresidentになっているのも目を引くところだ。
さて、Khona氏の担当分野は組み込み向けということであるが、まず最初に紹介されたのがKriaモジュールのVision向けの活用である。2021年10月に独シュットガルトで開催されたVISION 2021でスロベニアのOptomotiveが展示していた、ということで紹介されたのがこちらのSmilodon 10G EVOの4製品である(Photo01)。
この4つは産業向けの高速カメラモジュールで、Smilodon 10G EVO/5MPが5MPixel/290FPS、Smilodon 10G EVO/25MPが25MPixel/150FPSというかなり高速のカメラであり、内部処理にZynq Ultrascale+を採用している事はOptomotive自身が明言しているのであるが、その実装方法はこのモジュールの裏面にKriaをそのまま搭載していた、という話であった。これにより開発期間の短縮が実現できたという訳で、2021年4月のKriaの発表から僅か半年でこれを搭載した製品が出荷されるようになった、ということをアピールした。
ただこれはハイスピードカメラだからKriaのサイズが許容されたという話で、一般的にはカメラはもう少し小さいパッケージが要求される。こうしたニーズに向けて最近採用が進むのが、2021年3月に発表されたArtixおよびZynqのInFO(Integrated FanOut)パッケージで、これの採用が増えているという話であった。逆に何でこうしたものまでFPGAが必要か? と言えば、インダストリアル向けにはセンサーの高解像度化とフレームレート向上に伴い、センサーとのI/FがLVDSからソニーの提唱するSLVS-ECに推移しており、またカメラ出力もGbEに代わって10GbEとかCoaXpress(CXP) 2.0などになるため。一方監視カメラなどの用途ではインテリジェンスカメラへのニーズが高く、こうした用途向けにFPGAが使われる、という話であった。実際に搭載製品としては、2022年第1四半期中の発売が予定されているLucid Vision LabsのTriton Edgeが紹介された(Photo03)。
さて先にKriaがカメラ向けに採用されたという話をしたが、他にもISM向けに広範に利用されつつあるとし(Photo04)、今回はその中の一例としてロボティクスの例が紹介された(Photo05)。
元々ロボティクス向けと言えば、数年前になるがドローンの制御のZynqとかZynq Ultrascale+を利用したという例を聞いたことがあったが、この時には実装はすべてアプリケーション開発者が行っていたと記憶する。このロボットに関するABB社のロードマップがこちら(Photo06)で、現在はハードウェアアクセラレーションが入ったという段階だが、この先にまだまだ進化が予定されている。
こうした状況を踏まえて、KriaにROS(正確にはROS 2)をFPGAにインプリメントした、KRS(Kria Robotics Stack)の提供が紹介された(Photo07)。
スタックそのものやドキュメントはGitHubで公開されており、これを利用してROS 2ベースのアプリケーションをより高速に実行させることが、以前より容易に可能になったという訳だ。
最後がネットワーク絡みの話。TSN(Time Sensitive Network)は、特にFAにおけるネットワークでは随分普及してきているが、有線ベースでの接続はともかくWirelessでの接続に関してはTSNの対応が遅れていた。ただ特に可動式のロボットとか工作機械などが増えてきつつある昨今では、有線はどうしても不便ということで、無線でこれを利用する方法が模索されている(Photo08)。
ここでXilinxはPrivate 5G向けにTSNの機能を付加するブリッジIPを現在開発しており、遅くても2023年までには完成させたいという話であった。Private 5GであればLRLLCの構築は(相対的に)容易であり、この際にTSNを使って製造装置や搬送装置などをネットワーク化する、という用途に向けたものになるようだ。
ということで今回はXilinxのビジョンおよびISM向けの取り組みの簡単な紹介であった。今回の目的は、思うにAMDによる買収で、Xilinxが(IntelのPSGの様に)データセンターなどに絞り込みを行い、Embeddedを蔑ろにし始めるのではないか? という懸念を払拭するためのものだったように思う。
ただ気になるのは、未だにこのEmbeddedマーケット向け製品がArtix/Kintex/Virtex/Zynqという、いわば前世代製品な事。7nmプロセスを使うVersalはもうデータセンターとかAI向けに特化したものになっており、Embedded向けの7nm製品は存在しない(強いて言えばVersal Primeが「Embeddedでも使える」という程度だろう)事だろうか。AMDの傘下になって、このあたりに多少なりとも戦略変更があるかどうか、気になるところである。